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2017年11月27日
新着情報
11月12日(日)広島国際会議場ヒマワリ(広島)にて「とらわれて」の上映後、広島市立大学准教授 古澤 嘉朗氏と同大学講師 目黒 紀夫氏のトークイベントが開催されました。
古澤先生:
「映画の中でケニア、ダダーブ難民キャンプが閉鎖の危機にあるとの話が出ていました。確かにこの映画が撮影された2016年5月ごろ、ケニア政府はダダーブ難民キャンプを一方的に閉鎖すると表明し大きな話題となりました。
政府としては国内の経済的な負担、そして治安の面において安全保障上、難民キャンプが脅威の元となっていると主張したのです。近年ケニアではイスラム過激派の活動が活発になっており、2013年にはウェストゲートという有名なショッピングセンターでテロ襲撃事件が起こり67人の方が亡くなり、2015年にはケニア北部の大学キャンパスで148人の学生が虐殺されるなど、社会に大きなショックを与えました。政府は難民キャンプがイスラム過激派の拠点となっていると主張し、ダダーブの閉鎖を表明しました。
しかし、今年最高裁判所が難民キャンプの一方的な閉鎖は認めないという判決を出したため現在は閉鎖を免れています。この問題をより深く理解するにはケニアという国家の歴史を知る必要があります。ケニアは1960年代に独立しましたが、そもそもダダーブ難民キャンプのあるケニア北部はソマリ系の人が多く、隣国ソマリアの一部としての独立を訴えていたにも関わらず、当時の宗主国であるイギリスと政府の判断により、ケニアの一部となった地域なのです。」
目黒先生:
「映画を見て気づかれたかと思いますが、ダダーブ難民キャンプに暮らしているソマリ系の人々(ソマリア難民)はイスラム教徒です。ケニアで多数派を占めるのはキリスト教を信仰し主に農業を営む人々であるのに対して、ソマリ系の人々はイスラム教徒であり牧畜と通商に長けています。
こうした宗教的・文化的な違いに加えて、古澤さんが話されたような独立以降のあつれきがあることから、ケニアの多数派を占める人々はソマリ系の人々に対して根強い偏見があり、政府もソマリ系の人々の活動を制限し閉じ込めておこうとしているのです。
したがって、映画の中で難民はどこへも出かけられないという話がありましたが、これはアフリカにおいての一般的なケースではありません。他国の難民キャンプでは受け入れ国が帰化に積極的なケースもありますし、ダダーブ難民キャンプの閉鎖性はとても悲惨ですが、これは必ずしも「アフリカ」や「難民キャンプ」の一般的な状況ではない点に注する必要があります。
映画の最後で研究者の方が難民を受け入れることで経済が発展するという話もありましたが、ケニアの場合は経済的な説得性だけで難民受け入れを迫ることはやはり難しく、宗教や文化、歴史といった現地の文脈を知ることが大事だと思います。」
古澤先生:
「過去にはケニア国内でケニア北部とその他の地域の間には「鉄のカーテン」が存在しているといわれたこともありました。
しかし一方で、難民受け入れに関してケニア政府の負担が大きいことも事実です。単に隣の国だから助けるのは当然だろうということで任せっぱなしにするのでなく、国際社会としての取り組みが必要だと考えます。その意味で日本、そして私たちも難民問題に対して何ができるのだろうと考えることが重要です。
その際に難民をひとつのイメージだけで捉えるのではなく、それぞれが置かれている状況によってニーズが違うということを意識し、必要な援助を考えていくことが大事なのです。」