国連UNHCR難民映画祭2017

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名古屋上映(イオンシネマ大高)10/22 酒井教授によるトークイベントレポート

2017年11月09日

新着情報

10月22日(日)名古屋イオンシネマ大高にて「シリアに生まれて」の上映後、中東・アラブ世界に造詣の深い、千葉大学 酒井啓子教授と、国連UNHCR協会事務局長 星野守によるトークイベントが開催されました。

名古屋イオンシネマ大高10/22 酒井教授、星野事務局長トークイベント

星野:
「まずこれだけ夥しい難民を生んでいるシリア内戦の原因をどう見ていらっしゃいますか」
酒井:
「中東研究者にとってシリアとは最も安定した勉強のしやすい場所だったのです。2011年アラブの春によって中東諸国で政府への非難が噴出しましたが、シリアでは政権転覆までは至らず、政府、反政府勢力それぞれに諸外国が介入する代理戦争となりました。そこにイスラム国が入ってくるに至り例をみない内戦に発展してしまいました」
星野:
「シリアから国外に逃げる人たちに関して説明いただけますか」
酒井:
「映画で観たように、逃げる道中が大変です。それでもはるかヨーロッパまで行ける体力と財力のある人は別として、多くはシリアに隣接するトルコ、レバノン、ヨルダンに逃げ難民として暮らすのです。ただ隣接する諸国は人口も少ない中に大勢の難民が流入してしまっています」
星野:
「シリア、アラブの人々の家族の絆というのは強いのでしょうか」
酒井:
「家族全員で逃げたいと思う一方で、映画の中であったように現実はバラバラに逃げざるをえない人たちも多いのです。しかしアラブでは自分の身内だけでなく親戚もふくめ家族を広くとらえ、その中の誰か一人を逃げのびさせて、あとから合流して皆で安定した生活をめざそうという大家族の強い絆があります」
星野:
「家族の中で大黒柱である父親が難民となることで仕事を失うなど苦労をしています。このような状況はどうなのでしょう」
酒井:
「中東はまだまだ父親第一の夫権社会。父親が家族に対し責任を持ち、子どもは父親を頼りにしています。ヨーロッパに馴染んだように見える難民の子どもがいつか文化の壁にあたり自分が疎外された時、失意の父の姿を重ね、安住の地を得てもなお疎外感をぬぐいされないことが負の連鎖を生むのではないか、杞憂かもしれませんが昨今のニュースを見て心配しています」
星野:
「一方、映画で紹介されるシリア人女性を見て、イスラムのイメージとは違う世俗的な感じをもちましたがいかがでしょう」
酒井:
「シリアにはアサド政権下において宗教と社会生活を分ける考え方がありました。男女平等とか女性の社会進出など進んでいた面もあったのです。映画の中にでてきた自立する女性にその流れを感じます」

最後に酒井教授からメッセージがありました。「シリア情勢も報道ではなんとなく解決の方向に向かったという雰囲気があります。しかしだからといって難民への関心が薄れることはあってはならないと思います。彼らが安定した生活が送れるようになるまで見守るのが国際社会の義務だと思います」