『ソフラ ~夢をキッチンカーにのせて~』東京上映、JICA田中理さんトークイベントレポート

『ソフラ ~夢をキッチンカーにのせて~』東京上映、JICA田中理さんトークイベントレポート

UNHCR難民映画祭・東京上映2日目の9月8日(土)、『ソフラ ~夢をキッチンカーにのせて~』の上映後にJICA(国際協力機構)職員の田中理さんによるトークイベントが行われました。

田中さんはJICAで長年にわたり中東地域を担当しており、パレスチナ難民の支援を行うUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)への出向経験もあります。このトークイベントでは、パレスチナ難民の女性の姿が描かれた同作品のストーリーも交えながら、田中さんご自身の業務や現地での駐在経験などについてご紹介いただきました。

聞き手はUNHCR駐日事務所副代表の河原直美が務めました。

UNHCR河原(以下、K):『ソフラ~夢をキッチンカーにのせて~』では、レバノンで生まれ育ったパレスチナ難民が奮闘する姿が描かれています。田中さんはUNRWAで仕事をされていたこともあり、現地の状況にもお詳しいかと思います。

JICA田中(以下、T):1948年に発生した第1次中東戦争の際に、現在イスラエルとなっている土地にいた多くのパレスチナ人が住んでいる場所から避難しました。70年以上がたった今も、難民のまま、何世代にもわたってふるさとに帰ることができない人が多く存在しています。テレビでもよく報道されているヨルダン川西岸地区とガザ地区、そして周辺国のヨルダン、シリア、レバノンを含めて約540万人ともいわれる大きなグループです。

中東とかアラブとか聞くと、日本からは地理的にも遠く、なじみがない方も多いでしょう。みんながイスラム教を崇拝していて、お祈りは1日5回、断食をして・・・なんて思われているかもしれませんが、実はとても多様な地域なんです。イスラム教の中でもいくつも宗派がありますし、意外に思われるかもしれませんが、レバノンではクリスチャンが4割を占めるとも聞いています。

Kシリアに逃れたパレスチナ難民も多くいますが、2011年の紛争開始後、状況にどのような変化があったのでしょうか。

T:シリアには約50万人のパレスチナ難民がいましたが、紛争後、半数以上がさらに別のところに逃れなければならなくなりました。国内の別の地域に行った人もいれば、さらに別の国、たとえばレバノンには3万5000人くらいが逃れています。そもそもシリアでも苦しい生活を送っていた人が、もう1回難民となってしまった。新たな土地では、仕事を見つけることも簡単ではありません。

Kそんな厳しい状況の中でも、映画に出てくる難民の女性たちはとてもパワフルで、ケータリングビジネス起業で活躍していましたね。

Tイスラム教では女性は自由に外出できず、弱い立場にあるというイメージが強いと思いますが、実は家庭内では女性が強いそうですよ。私の知人でも、奥さんに買い物を頼まれて間違えて違うものを買ってきたら、もう一度買いに行かされたとか(笑)。

映画の中に「プランAが失敗してもプランBなんてないんだ。プランBとは、プランAにまたチャレンジすることだ」という言葉が出てきました。子どもの教育など目の前に守るべきものがある人たちは、何度壁にぶちあたっても、あきらめるという選択肢はとらないんだと思います。

K難民を受け入れる側も大変さがあると思いますが、 “難民”に対するステレオタイプのイメージが、受け入れの壁の一部になっているのではないでしょうか。

T私も難民支援に携わる前は、“かわいそうだから、困っているから助ける”というイメージを持っていました。でも、当たり前のことなんですが、難民の方々にもそれまで受けていた教育や身につけた知恵、強みがある。危ないとか、やっかいだとかいう存在ではまったくなく、私たちとなんら変わりないんです。たまたまそういう境遇になってしまっただけ。この仕事をしているとよく出てくる言葉ですが、誰もが“人財”。生まれた場所や境遇に関わらず、一人一人が財産であり、価値ある存在です。

K自分は必要とされていることが実感できてうれしい、といった場面がありましたね。ところで、田中さんは中東でお仕事をされていた時、日本人はどのようにイメージされていると感じましたか。

T日本人はどこでも大人気でした。聞くと、日本は中東の政治的な問題に直接的に責任がないにもかかわらず、支援を続けてくれているからだと。私が日本人だからそう言ってくれていたこともあるかもしれませんが、とても好意的に受け入れられていると感じました。

~質疑応答~

質問:ケータリングビジネスを立ち上げた女性たちを見て、自分の好きな事業を始めるということが、いかに難民の人たちを生き生きとさせるかということを感じました。そういう人たちが増えるよう、毎月ある程度の額のお金や資本を無条件で保証していくといった支援は可能なのでしょうか

TUNRWAでは、子どもたちに対する教育、保健医療などの基礎サービスのほかに、マイクロクレジットという小規模ローンによる支援を行っています。その中でやり繰りをしながらビジネスを拡大していくこともでき、さらなるチャンスにもつながっています 。

また、JICAではヨルダンの難民キャンプで暮らしている女性たちに、その土地で手に入る材料を使って、香水や石けんを作る技術を教えたりもしています。女性は普段は家の中にいますが、お金を稼ぐことでだんなさんとの関係がよくなったり、家庭経営に関して意見が通りやすくなったという声を聞きます。

KUNHCRは緊急時には毛布や水など、今日の雨風をしのぐ支援を主に行っていますが、JICAなどの開発機関やNGOなどのパートナーと連携しながら、長期的には現金給付や職業訓練、生計向上のためのプロジェクトも展開しています。難民ができるだけ自立して生活できるように支援していく方向を目指しています。

質問:映画の中では、アラブの女性はスカーフをしている人、目だけ出している人がほとんどでしたが、ケータリングのお客さんの中には髪を出していたり、中には日本人から見ても露出のある洋服を着たりしている人もいました。最近では、中東でも女性の生き方やふるまい方が多様化しているのでしょうか。

T服装の違いを社会の変化とまで言っていいかは難しい点です。信仰の深さは人ぞれぞれ。若いころはスカーフをかぶっていたけれど最近はかぶらなくなった、また、その逆の人もいます。一人の人の中でも信仰心は変わっていくものですから、時代の流れというよりは、個人個人の状況や年齢による変化が大きいのかもしれませんね。

※『ソフラ ~夢をキッチンカーにのせて~』は、東京・お台場にて9月29日(土)15:30~グローバルフェスタJAPAN2018で上映いたします。事前申込みなしでご入場いただけます(入場無料)。グローバルフェスタJAPAN2018の公式ウェブサイトはこちら

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