BAROQUE 圭 × 鈴木雄介 対談インタビュー

BAROQUE 圭 × 鈴木雄介 対談インタビュー

国連UNHCR協会では、昨年の11月から難民問題に関心を持つアーティストを中心に、月に1度のペースで難民問題について学び、意見やアイディアを交わす勉強会を開催しています。この勉強会に第1回から参加している、ミュージシャンのBAROQUE 圭さんと、フォトグラファーの鈴木雄介さんが、『ソフラ 〜夢をキッチンカーにのせて〜』を観て、お互いの思いを語り合いました。

◆未来を切り拓こうとしている人間の姿がすごくリアルに感じられた(BAROQUE 圭)

――『ソフラ 〜夢をキッチンカーにのせて〜』をご覧になっていかがでしたか?

鈴木:難民についての映画はテーマが深刻で、観ていると重たい気分になっちゃうものが多いのですけど、この映画は女性たちが明るい光に向かって歩んでいくストーリーなので、観ていて勇気やポジティブな力をもらえました。素晴らしい映画だと思います。

圭:難民についての映画ということで、観る前はどんな悲惨な状況を見て、自分が考えるのかなと思っていました。けれどもこの映画は、自分がやっている仕事に対するエネルギーをもらえるような内容で、すごくポジティブな気持ちになりましたね。この映画の主人公のマリアムは、レバノンの難民キャンプで生まれ育ったという、生まれながらにして難民だった。そういう状況でも、自分の力で未来を切り拓こうとしている人間の姿がすごくリアルに感じられたし、たくさんの問題を抱えているんだなという部分も見えました。映画ってちゃんと疑似体験ができるじゃないですか。この映画を観て、もっと他の作品も観たいと思いました。

――印象に残っているシーンは?

鈴木:僕はマリアムの旦那さんが、「彼女が働くことについてどう思う?」というインタビューで、「2人で助け合っていけるし、僕はいいと思う。拍手も手が2つないとできないだろ」という例えがすごく好きでした。それから、弁護士が彼女たちの活動を見て、「彼女たちは絶対にあきらめない、プランBもCもなくて、プランA。最初に志したプランAのためにひたすら進むんだ」という、彼女たちの力強さとポジティブな姿勢を表したその一言が、とても印象に残りましたね。

圭:マリアムが子どもの時に戦争を体験して、死を目の当たりにしているからこそ、どんなことがあっても、大きな問題だと思えない、立ち向かっていけると語るシーンが印象に残っています。死を身近に感じていたからこその強さ。だから彼女の強さや信念というのが、揺るぎないのだなと思いました。
それから、この映画だと車を1台買えたことが彼女たちにとっては、世界中に自慢したいぐらいだと言うほどに、すごく大きなことだった。けれども、世界には生まれながらにして車を何台も買えるような境遇の人もいるわけで。人間にとっての幸せや希望は、その人の環境とかを超えた部分にあるのかなとも思いましたね。例えば、境遇的には難民だけれども、希望を持って、一つひとつ夢を実現していくという意味では、幸せなのかもしれない。平和で物質的に満たされた生活をしていても、何も希望がないというのはすごく不幸な状況なのかもしれないということも考えた映画でした。

鈴木:それはまさに僕が10年程前、アフガニスタンに初めて行って帰ってきた時に、日本でサラリーマンの人を見て感じたことと一緒ですね。アフガニスタンでは、戦争が続いて、街中がボロボロだった。みんな廃墟に住んでいて、貧しくて、手足が無い人もたくさんいて、すごく厳しい状況の中で人々が生きていました。けれども、その日を生きるのに必死だからこそ、家族や友達の絆を、大事にしている笑顔がありました。日本に帰ってきて、ある朝、綺麗なスーツに身を包んだサラリーマンの方々が出社している姿を見たら、みんな下を向いて歩いていて、顔が活き活きしていなかったんですよ。笑顔で前を向いて歩いている人がいなくて。果たしてこれはどっちが幸せといえるのだろうか? と考えましたね。

――『ソフラ 〜夢をキッチンカーにのせて〜』に出てくる女性たちもそうですよね。難民という境遇ですけど、表情は活き活きしている。

鈴木:目標があって、苦しい状況の中でも、それに向かってちゃんとステップアップして進んでいるというその生きがいを自分が感じられるかどうかが、やっぱり幸せに繋がるのかなと思いました。

◆アートは、世界を変えられる力を持っている(鈴木雄介)

――昨年の11月から国連UNHCR協会で、月に1度のペースでアーティストやクリエイターなどが集って、難民問題の勉強会を行っていますが、圭さんはこの勉強会に参加するようになって変化はありましたか?

圭:普通に音楽活動をしていたら、出会えない人たちと出会えたり、話ができたり。知らないことを知れているので、かけがえのない特別な時間になっています。

――お互いの最初の印象はいかがでしたか?

圭:雄介さんと最初にお会いしたのは、勉強会が始まる前。イラクでの取材報告会に行って、その会場でお会いしました。僕は自分の夢を追いかけて音楽をやっているだけだったので、実際に現場に足を運んで、世界を見て、自分が感じたことを伝えようとしているところにまずリスペクトを感じました。しかも同世代ということで、雄介さんから、いろんなお話を聞きたいなとすごく思いましたね。

鈴木:僕は音楽をやっている人でも、こういうことに興味がある人がいるんだという嬉しさがありました。その後、一緒に勉強会を重ねていくにつれて、ものすごく真剣に、まじめに考えて取り組んでいる人なんだなと思いました。アートの業界に圭さんのよう人が同世代でいるということは、僕も励まされますし、一緒に手を取ってやっていけば、何か大きいムーブメントを将来的に起こせるのかもしれないという、心強さと楽しみがありますね。

――アーティストが難民問題に関わることについて、どう思いますか?

鈴木:僕が住んでいるアメリカだと、有名な役者やミュージシャンが、自分の思想をちゃんと伝えていますよね。影響力がある立場にいるっていうのがわかっているので。アーティストが社会に向けて発信するということは、広がる裾野がケタ違いです。やはり、そういう影響力を持っている人がもっと世界に関心を持って伝えてくれたら、世の中が変わっていくと思うので、すごく重要だと思いますね。
ベトナム戦争の時には、ジョン・レノンが歌って、若者が刺激されて、とても大きな戦争反対の社会的な動きになった。アートは、世界を変えられる力を持っていると僕は信じているので。いろんなアーティストの方とコラボレーションをして、もっと動いていきたいなと思いますね。

圭:僕もジョン・レノンやU2のボノが好きで、影響は受けたし、彼らの活動は素晴らしいと思っています。日本では、社会的な行動や思想が、音楽よりも全面に出てしまうと、拒否反応を示すファンやリスナーがいるというのも事実ですよね。
僕はロックバンドをやっている。なぜロックバンドをやっているかというと、自由な思想で自分らしく生きたいからなんです。だから世の中にある、自分らしさや自由を奪うようなことには、僕は賛同できない。そのことに対しては戦いたいという気持ちがあるんです。
ファンの中には、音楽を聴く時には夢を見たいという人も多いです。普段の生活で、それぞれがいろいろな現実と向き合っているからこそ、音楽の中では、現実的なものではなくて、夢を見たい気持ちはとてもよくわかります。
けれども、僕は、世界で起こっていることをちゃんとメッセージとして伝えなきゃいけない、伝えられる立場にいるということも、すごくわかっています。では、どういう伝え方が良いのかということは、まだ自分の中で答えは出ていません。音楽は、言葉にならないものを感じてもらう、言葉以上のものだと思うから、良い伝え方を身に付けていきたいですね。直接的な曲ではなくても、いつも僕の心の奥にはそういう気持ちがあって、その思いと共に自分は活動しているということを伝えていけたらと思っています。そういう気持ちがあるとやっぱり出す音って変わってくる。
アーティストとして、どういう心持ちで、ステージに上るかは大事だと思っています。だから、僕もこの世界に向けて、小さいことから始められたらいいなと思って、まず、僕は難民のことを知ろうと思いました。

――今年の難民映画祭のテーマは「観る、という支援。」です。まずは、観て知ってほしいという思いが込められています。

鈴木:観て知るというところがスタート地点ですからね。それがなかったら、何もできないし、何も変わらない。知るというその1つのステップはものすごく大きな可能性を秘めているので、大事なことです。特に映画は、すごく入りやすいですよね。
例えば、難民についての本を読もうと思っても、なかなかページをめくれないかもしれないですけど、映画だったらちょっと観に行ってみようという気軽な気持ちで観て、知ることができる。ヴィジュアルと音というのは人間の五感の中でもすごく重要なところだと思うんです。
例えばこれから僕が写真展を開催する時に、圭さんに館内の音楽を制作してもらったり、ライブで演奏して頂いたりするような、垣根を超えたコラボレーションをすることで、伝わり方が全然変わってくると思うんです。そういうことを今の時代どうやってできるかなということを、考えていきたいですよね。

圭:そうですね。1人じゃ実現できないことも、みんなそれぞれで考えて、協力できたらいいですよね。難民映画祭の応援メッセージで「この世に自分と無関係なものなど1つも無いのだから。」と伝えたんですが、地球の裏側で起こっていることでも、何かしら自分の境遇にも繋がっているという考え方があるじゃないですか。難民問題は、自分と遠く離れた話に感じるかもしれないですけど、僕はそんなことはないと思っています。

◆自分にできるどんな小さなことでもいいから、ちょっとやってみる(鈴木雄介)

――難民問題を知ることで、圭さんにはどんな変化がありましたか?

圭:ニュースで、難民の話題が出ると感じ方が変わりました。それから、日本で災害が起こった時も考え方に変化がありました。先日もツアーで岡山に行ったんですが、西日本豪雨災害の被害に遭ったファンの方から「大変でした」という声を聞いた時に、考えることも変わりました。自分と無関係だと全然思えないですよね。

鈴木:僕の東京に住んでいる友達が、頻繁に自然災害が起きているので「いつ死ぬかわからない」ということを意識するようになったと言っていて。おそらく、東日本大震災が起こる前の日本人にはあまりなかったものかなと思って。でもそれは、生きていく上ですごく大事なことだと思うんです。生きていることを当たり前だと思わない、それを頭のどこかで置いておくだけでも人生の生き方って変わってきますし、それが行動に繋がってくると思います。

圭:そうですね。僕がこの映画を観て1番思ったことが、死を意識したり、死を感じることで、生が輝いたりもするし、どう生きるかということに繋がっていくんじゃないかということなんです。僕は身内の死がきっかけで、自分が変わりました。そのことで傷ついて、周りへの反抗や抵抗にも繋がっていました。けれども、自分が大人になってみると、不可抗力で家族を奪われた人もいるということを知って、そのことも、難民問題に関心を持ったきっかけでもあります。人間、生きることは有限ですからね。無限ではないということを実感した時から、もしかしたらいろいろなことがスタートするのかもしれませんね。

鈴木:もちろん、恐怖や不安を感じるのは人間なので当たり前の反応です。じゃあそこからどうしようかっていう、その動きが生まれることで希望に繋がっていくと思いますね。そして、僕たちは写真や音楽で難民問題のことを伝えて、「私に何ができるのだろう?」と考えている人たちに向けて、実際にどういうアクションが起こせるのかというところまで提示できたらいいですよね。

圭:アーティストの社会貢献はスターの人たちがやっているというイメージもあるんじゃないかなと思うんですよ。「自分とは違うから、私にはできない」と思ってしまうのかもしれない。ミュージシャンの友達からも、「圭くん、難民問題に関わっているんだってね」と、言われることがありますよ。

鈴木:それは、圭さんの行動が気になっているということでもありますよね。それだけでも、難民問題に関心を引きつけているので、圭さんが動き始めた価値がありますよね。

圭:そうですね。彼らと話していて感じるのは「自分は大した人間じゃないのに、そういう活動をしたりするのは、おこがましい」と思っている人が多い気がします。でも、完璧な人間なんていないじゃないですか。

鈴木:その時の自分にあった、自分にできるどんな小さなことでもいいから、ちょっとやってみるというのが、最初のステップだと思うんです。例えば、SNSで難民映画祭の感想を書いたり、ツイッターで情報をシェアする時に一言加えたり、ハッシュタグをつけるだけでも、社会的な動きに繋がる可能性があります。圭さんとはこれからどんどんコラボレーションをして伝えていきたいですね。僕が写真展をやる時には、それに合わせた限定ライブをやっていただくというのはどうでしょう?

圭:ぜひぜひ! 僕も写真を使わせていただきたいという時があれば、よろしくお願いします。

鈴木:ぜひいつでも!

 

◆観ることで一歩進む(BAROQUE 圭)

――最後に、今年の難民映画祭に関心を持っていただいている方へのメッセージをお願いします。

鈴木:2013年に戦闘の激しかったシリアのアレッポに行った時に、ボロボロの街に住んでいるおじさんが僕に言った印象的な一言がありました。「街が破壊されていくことや、家族や友人が殺されていくこともだけど、僕たちは世界から忘れられていくことが、1番悲しくて寂しいんだ」という言葉です。シリアの人たちは、外の世界に向けて、携帯などで撮った悲惨な状況の写真や動画をアップして、自分たちの声を外に伝え続けているのに、「なんで世界は助けてくれないんだろう。世界は僕たちのことを忘れてしまったんじゃないか」と言っていて。だから、知って、自分たちのことを思ってくれている人たちがいるというだけでも、彼らにはすごく心の支えになります。難民映画祭の会場に行って、映画を観て、こういうことが起きているんだと知るだけでも、それはすごく大きなステップだと思いますので、ぜひ足を運んでみてください。

圭:難民というと、かわいそうな人と思う人も多いと思いますが、そういうイメージは映画を観て覆されると思います。地球で実際に起きていることは、同じ地球上で生きているからには知るべきだと思いますし、今、何が起こっているのかということを知るだけで、自分がいる世界や見えている世界も変わってくるはずです。それはすごく勇気にもなります。僕は、「人間の幸福や豊かさとは?」と考えるきっかけにもなりました。観ることで一歩進むと思いますので、ぜひ難民映画祭で上映される作品を観てほしいです。

 

【BAROQUE 圭】
2001年に結成したバンド、BAROQUEのギタリスト。2003年に行なった初の日本武道館公演まで驚異的なスピードでスターダムを駆け上がるも2004年に解散を経て、2011年にバンドを再始動。2016年、L’Arc〜en〜CielのKenをプロデューサーに迎えて制作したシングル『GIRL』が、iTunes Storeのオルタナティブチャートで1位を獲得。2018年7月には『AN ETERNITY』『FLOWER OF ROMANCE』の2枚のシングルを同時リリース。ライブのチケットが完売するなど、現在急速に支持を拡大している。

【鈴木雄介】
1984年、千葉県生まれ。東京の音楽学校に通っていたときに東南アジアやアフガニスタンを訪れ写真に興味を持つ。アメリカ、ボストンのNew England School of Photographyにてドキュメンタリーとヴィジュアルジャーナリズムを専攻。在学中より様々な賞を受賞する。同校卒業後、地元紙やロイター通信でフリーランスとして活動。現在、ニューヨークを拠点に、シリア、イラクなどの取材を続けている。

(文・武村貴世子/国連UNHCR協会広報委員)

 

※『ソフラ ~夢をキッチンカーにのせて』は東京上映の事前申込みは締め切りましたが、9月29日(土)15:30~のグローバルフェスタJAPAN2018での上映は事前申込みなしでご入場いただけます(入場無料)。グローバルフェスタJAPAN2018の公式ウェブサイトはこちら

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