【東京 ゲストトーク『罠(わな)~被災地に生きる』: 佐伯美苗さん】

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【東京 ゲストトーク『罠(わな)~被災地に生きる』: 佐伯美苗さん】

10月9日、東京での『罠(わな)~被災地に生きる』上映後、トークゲストとして日本赤十字社 佐伯美苗さんが登壇されました。司会はUNHCRの河原直美が担当しました。

―(河原)赤十字では台風ハイヤン(ヨランダ)被災地の復興支援に携わっておられますが、そもそもハイヤンとはどのような台風で、どんな影響をフィリピンにもたらしたのでしょうか
(佐伯さん)ハイヤンは2013年11月8日未明にフィリピン東部に上陸した台風で、勢力が一番大きい「カテゴリー5」として警告されていました。2013年当時のフィリピンの人口は9500万人ですが、ハイヤンによってなんらかの被害を受けた人の数は1600万人といわれています。

2015年3月末の東京都で生活する昼間人口(昼間に通勤や通学、居住する人口)が1570万人です。それに匹敵するほど大きな被害をもたらした台風だということです。

―フィリピンは自然災害が多い国ですね
フィリピンも日本と同じように毎年いくつもの台風に見舞われます。この作品を観て思ったことは、ハイヤンの傷跡が人々の心と生活に残っているにも関わらず、その状態のまま次の台風に備えながら日常生活を送らなければいけないという現実があるということです。

ハイヤンの時にも政府の気象当局から早く避難するように警告が出ているにも関わらず、(人々が台風に)慣れすぎていたことが被害を拡大させてしまった一因といわれており、また来ると思いながらも油断してしまったところもあるかと思います。
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―台風ハイヤンがきた後、日本をはじめ世界中からフィリピンへ支援が寄せられたと思いますが、どのような様子だったのでしょうか
レイテ島の被害がひどく、物資が届いていなかったり、救援チームが入れていないという報道が多かったです。空港や港の機能が麻痺していて使えず、緊急支援チームも被災者の元にたどり着くのが困難だったと聞いています。

**この後、佐伯さんがスライドを使って台風ハイヤンの当時の被害状況や赤十字の活動について説明してくださいました**

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―現在のタクロバンはどのような状況でしょうか
台風の被害を受けてから今年11月で3年目となりますが、難渋しながらも大きな援助があったため街中の復興は進んだという印象です。2年目の頃は特に山岳部で再建が必要な学校もありました。今ではレイテ島で学校再建のプロジェクトが進んでいます。

―この作品が制作された背景はご存知ですか
フィリピンの環境天然資源局からブリランテ・メンドーサ監督に被災地のドキュメンタリーを撮影してほしいとの依頼があったという話を聞いております。それに対して監督は、ドラマ仕立ての映画を制作したいと提案したということです。
主人公のベベスさんがフィリピンに普通にいそうな女性なので、私自身最初はドキュメンタリーだと思って観ていました。

<質疑応答>
(会場からのご質問)タイトルに「罠」とあるのはどういうこと意味なのでしょうか
なぜこのようなタイトルなのか分かりませんが、とてつもない喪失感や行き場のない感情を抱えて生きることを表したかったのではないかと思います。

(会場からのご質問)日本赤十字社のプロジェクトは今年の年末までということですが、それ以降はどうなるのでしょうか
日本赤十字社が復興を担当するレイテ島東部にある学校はすべて再建されまして、今後これらの学校はレイテ州政府が管理していきます。セブ島ではフィリピン赤十字社が主体となり、長期の地域活動を行っていく予定です。

PROFILE
プロフィール:佐伯 美苗(さえき みな)
日本赤十字社国際部所属
企業勤務ののち、2000年にNGOへ転職し、イスラーム世界での緊急対応、人道支援分野の業務、国内での災害対策事業に従事。
2015年より、日本赤十字社国際部にて、ハイヤン被災地復興支援事業担当として勤務中。

Photo: UNHCR