大学パートナーズ:鶴見大学 (12/19)
12月19日、鶴見大学で「グッド・ライ」の上映とトークショーが行われました。最初に鶴見大学の伊藤克子学長が登壇され、UNHCR難民映画祭について、またUNHCRと鶴見大学との関わりについてお話されました。鶴見大学は、2010年から日本で難民申請している人を対象に無償で歯科治療を行い、これまでに170人が受診しています。伊藤学長は「映画を観て感動するだけでなく、映画上映後のゲストのお話を聞いて更に理解を深めて頂きたい」と語りました。
(鶴見大学の伊藤克子学長)
映画上映後は認定NPO法人 難民支援協会(JAR)代表理事の石川えりさんと、UNHCR駐日事務所の守屋由紀広報官がトークゲストとして登壇しました。鶴見大学国際交流センター教授の永坂哲先生がモデレーターをつとめられ、トークイベントが行われました。
(鶴見大学国際交流センター教授の永坂哲先生)
(永坂先生)この作品は何度観ても涙を誘われます。まずは映画「グッド・ライ」に対するお2人の思いをお聞かせください。
(守屋)この映画は今年4月に劇場公開されましたが、その前から注目していてぜひ多くの方にご覧頂きたいと思っていました。何回観ても涙が出てしまうシーンがあります。この作品は難民支援のAからZまで、ありとあらゆる要素が詰まった素晴らしい作品だと思います。
主演の俳優の1人、ジェレマイア役のゲール・ドゥエイニーは元少年兵であり、ロストボーイズの1人でもあり、この映画のように第三国定住で米国へ渡った経歴があります。思い出したくない過去と向き合いながら、この作品に出演したのは「難民についてもっと知ってもらいたい」という思いがあったと聞いています。
現在はUNHCRの親善大使もつとめているゲールを、今年の難民映画祭のスペシャルゲストとして日本に招きました。その際、自分を受け入れてくれた米国への感謝、教育を受けられたことへの感謝を述べていたことも印象的でした。
(UNHCR駐日事務所の守屋由紀広報官)
(石川さん)この作品は難民支援をしている立場として、共感する部分も多くありますし、それ以上に大切な人との絆について考えさせられる映画だと思います。また、誕生日が定かでない人は1月1日を誕生日として登録するなど、細部にリアリティを感じました。また宗教を基盤とした慈善団体が第三国定住で米国に来た難民を支援しているところなども、現実に沿って描かれていると感じました。
また、難民にとって知らない国で新たな生活を1からスタートさせる難しさもよく伝わってくる作品だと思いました。
(難民支援協会(JAR)の石川えりさん)
(永坂先生)日本は難民条約の加盟国ですが、昨今の世界での危機的情勢が日本にはどのように影響しているでしょうか
(守屋)問い合わせも大変増え、メディアの関心の高まりを日々感じています。現在、世界では6000万人もの人が紛争や迫害を逃れ、避難を余儀なくされており、UNHCRにとっても最悪な事態のなか活動を続けています。シリア危機は5年目に突入しましたが、被害を受けているのはごく普通の家族です。UNHCRは難民が逃れた先で手を差し伸べ、支援活動を行っていますが、日本に庇護を求めてくる難民もいます。UNHCR駐日事務所は難民の受け入れを行っている法務省などと連携し、活動を行っています。
今後は日本社会で生きる1人1人が、難民についての理解をより深め、積極的に議論が行なわれたらと願います。
(永坂先生)JARは日本へ避難して来た難民の支援をしていますが、普段の活動から感じられる変化はありますか?
(石川さん)「食べる、寝る、働く」といった人が生きる上で大切な支援を行うために1999年にJARは設立されました。寒さが増すなか、防寒着を持っていない人も多く、「食べていない」「寝る場所がない」など、切羽詰まった状態で事務所で来られる方が増えています。このような人が最低限のサポートを欠けることなく受けられるセーフティネットが日本にはありません。公的な支援が必要な人へは直ちに可能になるよう提言を行っています。
(永坂先生)映画では第三国定住で米国へ行く3人が主人公ですが、この第三国定住についてご説明いただけますか?
(守屋)第一の国が母国、第二の国がその周辺国などの庇護国、第三国定住とは、難民キャンプなどから更に別の国へと移動し、定住することを意味します。映画の中でも描かれていましたが、米国へ行ってそれで終わりではありません。定住するということは、自立して生きていくことを意味します。日本も2010年から第三国定住でタイの難民キャンプにいるミャンマー難民を受け入れてきました。日本に来る前に日本語や、日本文化などの理解を深める為のオリエンテーションを行い、日本に来た後は6ヶ月間研修を受けます。難民キャンプなどで自分の将来を描く機会がないという人にとって、第三国定住は素晴らしいチャンスと言えます。
(永坂先生)石川さんは米国で第三国定住プログラムに関わった経験をお持ちですが、日本と比較して何か感じることはありました?
(石川さん)映画にも出て来ましたが、米国では到着したらすぐに就労のための面接を受けます。英語が出来なくても、まずは働く、そして保険に入るというあたりは米国ならではの特徴かと思います。その点日本では、6ヶ月間の助走期間が設けられており手厚いと米国関係者からは言われます。就労という意味では、米国にはもともと社会の中に難民が多く、第三国定住で米国にきた人が、後に難民支援をするNGOの職員になって活躍している例もあります。
(永坂先生)鶴見大学では2010年から難民プロジェクトチーム(RBT: Refugee Project Team)を立ち上げ、日本にいる庇護申請者を対象に無償で歯科治療を行ってきました。この活動は6年目に入り、これまでに34ヶ国、169人が受診しました。診療回数にしますと1354回に上ります。
(守屋)歯科診療は特に保険がない人にとって大きな負担です。庇護申請をしている人への無償の歯科治療は大変ありがたく、またそれぞれが持つスキルを活かして行う難民支援の良いモデルでもあると感じています。
(石川さん)感謝の言葉しかありません。歯が痛くて困っている人に、受診できるところを紹介できるということだけでなく、「社会にあなたのことを気にかけている人がいる」というメッセージを伝えるという意味でも意義深いと言えます。社会の中に居場所がある、独りじゃないということを伝えるのはとても大事なことです。鶴見大学には継続してご支援頂いており、とても感謝しています。
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この後質疑応答が行われ、最後に「どんな状況にあっても困っている人がいたらお互い様の精神で助け合うという気持ちが大切」という永坂先生の言葉でトークイベントは締めくくられました。
会場には鶴見大学が行っている難民支援についてわかりやすく紹介するコーナーが設けられました。実際に診療を行っているスタッフからのメッセージも掲示されており、多くの人が足を止め、真剣に読んでいました。また会場ボランティアを担当した元気な高校生の皆さんが、丁寧にお客さんを案内する姿も印象的でした。
▼モデレーターの鶴見大学国際交流センター教授の永坂哲先生のインタビュー記事もぜひご覧ください。鶴見大学の取り組みも御紹介しています。
https://www.unhcr.or.jp/ouentai/interview/i0001.html