大学パートナーズ:上智大学(10/23)上映レポート
10月23日、上智大学で『目を閉じれば、いつもそこに~故郷・私が愛したシリア~』の上映とトークイベントが行われました。この日は上智大学の学生、学外からの参加者に加え、30人を超える高校生が参加してくれました。
上映後は上智大学国際関係法学科の岡部みどり教授と、小尾尚子UNHCR駐日事務所副代表が登壇し、上映作品の背景説明や質疑応答を行いました。
(岡部教授)ある日突然難民となってしまう状況がこのドキュメンタリーを通して伝わって来ました。改めて「シリア難民」とは、どのような人々であると考えますか?
(小尾)5年前にシリアで始まった紛争により、これまでに25万人以上が亡くなったと言われています。シリアにはもともと2000万人を超える人口がいましたが、そのうちの約400万人が難民に、約760万人が国内避難民になっています。これは総人口の実に約50%が家を追われ、避難していることを意味します。
アラブの春に始まった民主化の波はシリアにも拡がりました。当初シリアの人々はこれほどまでに長い紛争になるとは予測していなかったでしょう。政治的解決が見い出されないまま紛争は長期化しています。そして数百といわれる武装勢力が乱立し、その状況をより複雑なものにしています。そんな状況から命を守る為に他国へと逃れた人々がシリア難民です。
(写真右:上智大学国際関係法学科の岡部みどり教授 写真左:小尾尚子UNHCR駐日事務所副代表)
(岡部教授)難民を受け入れる国の課題は何でしょうか
(小尾)この作品にはライダという5人の子どもを抱えて避難生活を送っている女性が出てきます。シリア出身の多くの家族がライダのように夫を亡くし、女性が家長となり一家を支えています。それは夫、父、兄が不在の家族であり、難民として逃れた国で多くの困難に直面します。
まず、住む場所を探すのに大変苦労します。現在約400万人が難民となっていますが、そのうち難民キャンプで生活しているのは20%。残りの80%は街で住む場所を探して生活しています。シングルマザーだと、避難先で部屋を借りることが難しいのが現状です。仮に部屋を見つけられても、働きに出るために幼い子どもの面倒をもう少し大きな兄や姉がみることになり、結果子どもたちは学校に行けなくなります。現在シリア難民の約50%が子どもですが、そのうちの半数が学校に通えていません。
さらに、児童労働の問題も深刻です。男の子が路上でごみを集めて売る姿も見られます。女の子は早期婚というリスクにさらされています。貧困にあえぐ家庭では12~13歳で結婚させられるケースがあり、しかも結婚後数週間で女の子が家に戻されてしまうこともあるのです。つまり、金銭的に家族の面倒をみるという約束のもと結婚したはずなのに、一方的に相手の男性に離婚されてしまう。シリアの女性はさらに追い詰められることになります。
このような過酷な状況にも関わらず、難民支援に必要な額の30%しか集まっていないのが現状です。
(岡部教授)今後国際社会に期待することはなんでしょうか?
(小尾)1つ目は政治的解決です。政治的解決なしでは難民の流出はおさまりません。2つ目は周辺国への支援。3つ目は、特に欧州を目指す難民が増えていることを受け、目的地を目指す過程で通る経由国の取り組みを支援することです。
4つ目は国際的連帯です。シリア紛争とそれに伴う難民の流出は、中東だけの問題ではありません。例えば難民の多くは必要な医療サービスを受けられない環境にいます。UNHCRは昨年、近隣諸国の負担を軽減するためにも、治療などの特別なケアを必要としているシリア難民の第三国定住、あるいは人道的な受け入れの要請を各国に行いました。これまでに既に10万人の受け入れが決まりましたが、実際はその数倍の人が受け入れを必要としています。国際連帯、人道、責任の共有という観点からシリア難民へのさらなる支援が求められています。
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この後、多くの学生から質問が寄せられました。トークイベント終了後も、岡部教授と小尾副代表に質問したい!と長い列が出来るなど、関心の高さが伺えました。
Photo:UNHCR