大学パートナーズ:明星大学(10/31)上映レポート

大学パートナーズ:明星大学(10/31)上映レポート

10月31日(土)、明星大学で『アントノフのビート』の上映会が行われました。

上映前には映像翻訳に携わった映像翻訳フィールドワークの学生代表4人が「作品の概要」「難民とスーダンについて」「映像翻訳フィールドワークについて」「UNHCRとは」についてそれぞれ発表をおこないました。

映像翻訳フィールドワークの学生は全部で20人。

4月から夏までは映像や翻訳の基礎知識をプロ(「日本映像翻訳アカデミー」)から学び、今年の夏から学生全員で翻訳作業に入ったそうです。難民という重要なテーマを扱う作品であるだけに「どの言葉を選べば、より伝わるか」など、朝から皆で話し合いながら作業を続け完成させました。明星大学での上映会の企画、運営も皆さんで行ったそうです。

「悲惨な環境の中で生きる難民の人たちも、私たちと同じ人間です。私たちとなんら変りもない人々が過酷な状況を未来に向かって生き抜く姿を、この映画を通してご覧頂きたいと思います」という学生の皆さんのメッセージとともに上映がスタート。

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映画上映後、菊地滋夫 明星大学人文学部・国際コミュニケーション学科教授がゲストスピーカーとして登壇されました。映像翻訳フィールドワーク3年生の鈴木さんがモデレーターとしてトークイベントが行われました。

―まず作品をご覧になっての感想を教えてください
(菊地教授)この作品の魅力は、なんと言っても前を向いて力強く生きている難民の姿が描かれているところだと感じました。またここで描かれる音楽とダンスも素晴らしい要素の一つです。

―この映画の中で、菊地先生が特に注目された場面はどこでしたか?
(菊地教授)抑圧されているからこそ力強い音楽が生まれてくる点に注目しました。また、作品に出てくる「女の子たちの音楽」がありますね。これは女の子たちが歌い手となり、日々の生活や彼女たちが願っていることが直接表現されている点が印象的でした。
アフリカの音楽は皆が一体となって音楽を楽しむスタイルが典型的です。そういった音楽の楽しみ方もよく伝わってくると感じました。歌い手が歌にして歌う、著作権や楽譜にしばられない音楽である点も特徴的です。身近にあるものを組み合わせて楽器を作る、その様子も垣間見られる作品ですね。

―音楽以外で、これはぜひ知ってもらいたいということがあったら教えてください
(菊地教授)作品では歴史的な背景が語られていません。スーダンの国家的枠組みについてや、過去のイギリスの植民地支配が今でも大きな紛争の火種になってくすぶっている点を忘れないでほしいと思います。またハルツーム(スーダンの首都)の政府だけが批判されていた点が気になりました。

この映画の中では、北部の政府側が意識してる「自分たちはアラブ人である」という葛藤が南部の人々を抑圧しているという視点が描かれていました。当事者たちの視点からは、これは一つの側面であると言えるかもしれませんが、他方そこに焦点が当たり過ぎて、紛争をめぐる国際的な様々な要素(大国による油田の利権問題など)が描かれていません。スーダン、南スーダンの話ではなく国際紛争であるという点がこの作品では出てこなかったことが気になりました。

紛争がなかなか終わらない要因の一つが油田をめぐる争いです。また、武器(作品には大きな戦車が登場します)の保有も大きなポイントです。政府側も反政府側も諸外国からの支援を受けて武器を保有しているのです。ロシアや中国に限らず、大国が関わっているという視点を持つことが大事です。

菊地教授は最後に、紛争が始まるとどちらかが正義でどちらが悪化とは明確に分けられなくなって来るという事に触れ、スーダンにおいても悲劇が起こった後に健全な国家を作って行くことが課題であると述べました。また大虐殺が起こった後のルワンダで、人々が対話を重ねて互いを赦しあい、乗り越えようとしているように、アフリカの人々にはそのように問題を解決する潜在能力があるという点にも触れました。また教育の重要性、さらなるインターネットの普及によって、今後は自分たちの置かれた状況をより冷静に客観的に判断できるようなるのではお話しされました。

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この日会場には多くのお客さんがお越しになり、会場の外に設置した服の回収ボックスも入りきらないほどいっぱいになりました。

上映会のチラシも当日配られたプログラムも全て学生の皆さんの手作り。また司会進行も、上映前のプレゼンテーションも、トークイベントのモデレーターもすべて学生の皆さんが一生懸命やっていた姿が印象的でした。
「映像を通して、難民が生き抜く様子を皆に伝えたい」という強い想いが伝わってくる上映会でした。

Photo:UNHCR