ゲストトーク:『トランキランディア』JICA山岸真希さん
10月10日『トランキランディア』が上映されました。まず上映前にJICAの山岸真希さんが映画の背景について解説されました。コロンビアでは多くの農民が貧困状態にあること、またFARC(コロンビア革命軍)といったゲリラ組織が農民に何をもたらしたかに注目して観て欲しいとお話しされました。
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そして映画の上映後、トークゲストとして登壇されました。
―まずこの映画をご覧になった感想をお聞かせ下さい
私は2009年、2010年にコロンビアに住んでいました。当時私が日常生活の中で感じ、見ていたコロンビアは、この作品に描かれているコロンビアとは全く違ったものでした。それはアマゾンやカリブ海、コーヒー農園といった観光地としてのコロンビアであり、農民の苦悩について思いを馳せたことはありませんでした。この映画を観て、コロンビアに住んでいても見えないものがあったことに衝撃を受けました。
―作品の中では農民が暴力を受けたり迫害されたりする様子が描かれていました。政府軍、民兵など様々なアクターが登場しますが、その関係を教えてください
「FARC」というのは農民から派生したゲリラ組織です。一方、「民兵」というのはAUC、パラ・ミリタリーなど呼び名を変えて登場します。この組織はもともと政府によって作られています。FARCは政府がコントロール出来ない農村地域でゲリラ活動をしていました。
そこで政府はFARCと戦わせるために、農村地域出身の人々を組織化しました。映画にもあったように、農民に対しては「君たちを守るために民兵は結成された」と説明されていましたが、結局、犯罪組織化されて行きました。その結果、農民はどちらからも守られず、どちらからも迫害されました。生き残るためには土地を捨てて逃げるしかなくなったのです。
―暴力や迫害はどのくらいの人に影響を及ぼしたのでしょうか
22万人が殺害され、600万人の国内避難民がいるといわれています。これは東京の人口の半分に相当します。さらにコロンビアでは、毎年20万人が新たに国内避難民になっています。
―コロンビアでは今現在も暴力行為が続いていますね
そうなんです。パラ・ミリタリーに関しては数年前に解体しましたが、名前を変え犯罪組織として依然存在しています。またFARCが麻薬組織と手を組み、資金を得て武器を買うようになりました。現在はFARC、パラミリタリー、麻薬組織などが複雑に絡み合って紛争が続いています。力を持たない農民が一番つらい思いをしています。
―山岸さんはJICAで平和構築のお仕事をされています。特にコロンビアの土地返還政策促進のための土地情報システムに関するプロジェクトを進めておられます。このプロジェクトについて、具体的に教えて頂けますか
今FARCと政府の間で和平交渉が続いています。政府は、土地を奪われた被害者の権利を認めて、土地を返還しようとしています。被害者は各々に土地返還のための申請を行うわけですが、その個人情報を管理し、守るための「土地情報システム」のIT技術支援をしています。
―この時期に、土地返還政策促進のためのプロジェクトが実施される意義はどういったところにあるのでしょうか
9月にFARCと政府の間で6ヶ月以内に和平交渉を締結させるいう合意がありました。今後長いスパンでコロンビアの将来を考えたとき、政府が農民からの信頼を取り戻す必要があります。この紛争被害者へ土地を返還する政策は、政府が農民からの信頼を取り戻す重要な取り組みであり、JICAは長期的視野に立ち、コロンビアにおいて平和構築に貢献するために、事業を実施しています。
―現在何件くらい登録されているのでしょうか?
既に7万3000件登録されていますが、これは全体の20%だと言われています。そもそも土地が返還されるという事を皆が知っているわけではありません。登録し、返還するというプロセスには時間が必要です。コロンビアの政府としてはこの取り組みを進めて行きたいと望んでいます。
Photo:UNHCR
プロフィール 山岸真希 (やまぎし まき)
国際協力機構(JICA)社会基盤平和構築部、特別嘱託。主に、紛争影響国の農村で復興開発に取り組んだ後、現職。 これまでにスリランカ(4年)、ボスニア・ヘルツェゴビナ(3年)など。他に家族の仕事で、コロンビア、エチオピアに在住。現職では、『平和構築』支援とは??と思いを巡らせつつ、紛争影響国における多様な事業運営に携わる。