ゲストトーク@仙台:『人の望みの喜びよ』杉田真一監督
11月1日、仙台での『人の望みの喜びよ』上映後、杉田真一監督がトークゲストとして登壇されました。
―この作品はなんと言っても主演の2人が印象的です。姉の春菜と弟の翔太、本当に実在してそこで生きているように感じられました。翔太役の大石稜久くんは撮影当時は何歳だったんですか?
この物語の設定は5歳で、撮影当時大石稜久くんも5歳でした。
―なぜこの作品を撮ろうと思われたのですか?
私は14歳の時に阪神淡路大震災を経験しました。私は被害にあったものの、自分の周りの大切な人は幸い無事だったんです。でも、周りには大事な人を亡くしたり、家を失った人が多くいました。そういった人々を目の当たりにしながら、何もできない自分に対して後ろめたさを感じていました。その後、2011年に東日本大震災が起こりました。東京にいた私は直接な被害を受けずに済みましたが、テレビをつけると津波や地震の被害状況のライブ映像が飛び込んで来ました。それはまさに今現実に起っていることでした。14歳の頃に感じた思いが蘇って「今、何かをやるべき時」と実感したんです。それが直接的なきっかけです。
―映画の中で阪神淡路大震災や東日本大震災など、どの震災を描いているのか明確にしていない理由は何ですか?
脚本を錬り始めたときから、限定しないでおこうと決めていました。阪神淡路大震災や東日本大震災などと特定してしまうと、過去のものとして見られてしまうのではないかという思いがあったからです。今回は過去を振り返る映画にはしたくありませんでした。なので、敢えて限定しないことによって、この映画を普遍的なものにできたらと思っています。
―UNHCR難民映画祭、今年は初めて仙台で開催しています。杉田監督と東北、仙台とのつながりは何ですか?
記憶にはないんですが、生まれて半年間仙台に住んでいました。また学生時代に、仙台へ単身赴任で来ていた父を訪ねたこともあって、仙台には親近感があります。また東日本大震災のあと、東北で監督やプロデューサー、俳優さんなど映画業界の方々が何か出来ることはないか、少しでも日常を忘れられたらと仮設住宅などで映画の上映会を開催していました。私もそこにスタッフとして何度か参加させて頂きました。そこでの経験、出会った人々、感じたことがこの映画にも大きな影響を与えていると思います。
―ご自身の作品が難民映画祭の一作品として選ばれたとき、どう思われましたか?
一番最初に思った事は「意外だな」ということです。直接難民を扱っている作品ではないので。でもよく考えてみると、被災者の方々が経験した大切な人を亡くしたり、生まれ育った故郷から離れなければならないこと、それは現在の難民の人々の生活と通じるものがあると思います。当たり前のことですが「難民」や「被災者」と呼ばれる人々にも私たちと同じく、ひとりひとりに名前があり、家族があり、思いがあります。今回の難民映画祭では10本の映画が上映されています。それぞれの人の思いを描いた映画が、点と点でつながり、線となって、面となり、立体になっていけば、「難民」や「被災者」と呼ばれる人々をもっと身近に感じられる切っ掛けになるのではないかと考えています。
―なぜ、この作品を雲仙市で撮影されたのですか?(会場からのご質問)
プロデューサーが雲仙市出身だったと言う事もあり、脚本のイメージに合っているのではないかという提案がありました。そこで実際に現地に行ってみると、ロケーションとしてとても魅力的でした。また地元の方々がとても協力的だったんです。その理由を考えたのですが、雲仙普賢岳の近くに住む人々も自然災害によって、苦悩を経験したという過去があるからかもしれません。そんな地元の方々に支えられ、撮影を進めることができました。
―春奈の定住先の学校の描き方が現実と乖離しているのではないかと感じました。被災者を受け入れる側はもう少しあたたかく対応するのではないかと・・。なぜこのような描き方をされたのでしょうか?(会場からのご質問)
確かにそうかもしれません。受け入れる側にも準備や覚悟が必要だったり、背景も全く異なるので映画のように春奈が受けたものが一般的なものとは考えませんし、殆どの人々は本当にあたたかく接するのではないかと思います。でも、それは全てのケースに当てはまるものではない言う事も事実だと思います。そこで私は、そういった可能性もあるかも知れない、もしかしたら見逃してしまっていることもあるかも知れないと、この映画を見た人々に感じていただきたいと考えました。
―東日本大震災を経験し、自分に何ができることは何かと悩みました。私のような学生の立場で出来ることはなんでしょうか。(会場の学生の方からのご質問)
東日本大震災は未曾有の大震災と語られます。「未曾有」とは、どこの本にも載っていない、経験や知識が豊富な大人でも対処の仕方を知らないという状況ではないでしょうか。では私たちは何を頼りに生きれば良いのか。案外そんな時、知識や経験だけに頼らない子どもの方が強く、より良い選択が出来たりするのではないかと思うことがあります。学生の年代は、ちょうど子どもと大人の間。知識や経験はもちろん大切ですが、それ一辺倒になるのではなくバランスを失わずに道を切り拓いて行って欲しいと思います。これは私自身に言い聞かせていることでもあります。
Photo:UNHCR
プロフィール 杉田真一(すぎた まさかず)監督
1980年生まれ、兵庫県出身。大阪芸術大学映像学科卒。在学中に監督した短編『夢をありがとう』が新星学生映画祭観客賞受賞。卒業後、阪本順治監督、山下敦弘監督、大森立嗣監督などの作品にスタッフとして参加。2011年、短編映画『大きな財布』を監督。国内映画祭で5つの賞を受賞、また海外の評価も高く、 ヨーロッパ、アフリカ、アジア、計6カ国の映画祭から招待を受ける。今作『人の望みの喜びよ』で長編監督デビュー。第64回ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門にて、 最高賞に次ぐ”スペシャルメンション”を受賞。また、同映画祭”Best First Feature Award 2014(新人監督賞)”へノミネートされる。