ゲストトーク@札幌:『ホープ』JICA飯村学さん
10月25日『ホープ』の上映後にトークゲストとして国際協力機構(JICA)アフリカ部の飯村学さんが登壇されました。10月3日(東京)に続き、2回目の解説トークです。まず『ホープ』 という作品への理解をより深めるために、ストーリーを振り返りながら背景説明をしてくださいました。映画の主演、ホープとレオナールや、劇中に登場する ゲットーのチェアマンなど、実は本当にその体験を持つ人が演じていたのだそうです。この映画のリアリティはそんなところから出てきているのかもしれません。
続いて主人公が、モロッコ領に隣接するスペイン領メリリャにたどり着くまでのルートについて地図で解説。気候の厳しいサハラ砂漠を縦断する過酷な旅。通過する町々では、出身国の国籍ごとにしきられた縄張りの不条理に打ちひしがれたのでした。
ですがそもそもアフリカからヨーロッパへの移民の流れは今に始まった話ではなく、これまでも長く続いてきたそうです。ヨーロッパとアフリカの経済格差、貧困、限られた就業や教育機会・・。そういった根本的な問題が、多くの移民を生んできた現実を、西アフリカのセネガルを例に解説されました。
しかしこの地域の状況に変化があったのが2010年頃。この頃から、人の流れとしては「移民」に加え、紛争の影響を受けた「難民」が新たに加わってきたと説明。特に主人公のホープはナイジェリア、レオナールはカメルーン北部出身との設定。この地域では、まさに「ボコハラム」の活動が活発化し、掃討作戦が進行しているのです。「移民と難民の違いを明確に区別することはとても難しい、個別に判断するべきものだが、治安という要素が一つの要因になっている」と補足されました。
それまで貧しい中でも人々は水や食べ物を分け合いのんびりと暮らす、そんな平和があったサ ヘル地域。しかしイスラム過激派組織の侵入、リビアの体制崩壊、マリ内戦、ナイジェリアにおけるボコハラムの活動の活発化など、地域の治安情勢が急激に悪 化していきます。主演のホープはナイジェリア、レオナールはカメルーン北部の出身。二人はまさにこのような時代背景の中で、ヨーロッパへの密航を決意したのでした。
トークの最後に、この映画でとりあげられている問題は政情、治安、貧困、干ばつ、気候変動、こういったものが複雑に絡み合った複合災害であり、慢性的にこの地域に巣食うこれらの問題に国民が自分たちで向き合えるようにしていくことが根本的解決につながる大事なことだと説明。そしてこのような背景のなかでホープという映画が作られ、この映画にあったようなストーリーが今日も進行しているということに思いを馳せることの大切さにふれ、話を締めくくりました。
Photo:UNHCR
プロフィール 飯村 学(いいむら つとむ)
国際協力機構(JICA)アフリカ部参事役。専門分野はフランス語圏アフリカ。特に政情・治安・セキュリティ問題、平和構築支援など。海外駐在は、セネガ ル共和国、コンゴ民主共和国。仕事のかたわら、「ンボテ☆飯村」の名前で、映画、トークなどアフリカに関するプロモーション活動を展開。主な執筆に「コン ゴにまつわるエトセトラ」(『Dodo』2013年5月号)、「マリ そこにある危機~砂漠の祭典よ、再び」(『ARDEC』2014年12月)、「サヘ ル・サハラ危機情勢と今後の見通し」(『国際開発研究者協会ジャーナル』2013年8月)、「開発の現場から見たマリ、サヘル情勢」(『サハラ地域におけ るイスラーム急進派の活動と資源紛争の研究』、日本国際問題研究所、2014年3月)、『グローバルキャリア教育』(共著、ナカニシヤ出版、2012年3 月)、「アフリカの平和に生きるサッカーのチカラ」(『現代スポーツ評論』、2014年11月号、創文企画)など。元自衛官(高射ミサイル部隊)、防衛大 学校卒。個人ブログ『ぶらぶら★アフリック』https://blog.goo.ne.jp/nbote