ゲストトーク@札幌:『目を閉じれば、いつもそこに』藤井沙織監督

ゲストトーク@札幌:『目を閉じれば、いつもそこに』藤井沙織監督

10月24日、札幌での『目を閉じれば、いつもそこに ~故郷・私が愛したシリア~』上映後、藤井沙織監督がトークゲストとして登壇されました。

―同作品を制作しようと思ったきっかけを教えてください

(藤井監督)以前ドキュメンタリー制作会社に勤めていた時に、戦争を体験された方に話しを聞く機会があり、戦争や平和について考えるようになりました。自分ができるのは映画制作でしたので、戦争を知らない世代の人が考えるきっかけを創りたいと思いました。

―監督ご自身が広島のご出身というのも関わりがあるのでしょうか

(藤井監督)広島では義務教育の際に、「平和学習」が授業に盛り込まれていました。ほかの地域と比べて、戦争の歴史に触れる機会が多かったように思います。

―シリアとはどのようにかかわり始めたのですか

(藤井監督)シリアで紛争が始まって、山本美香さんというジャーナリストがアレッポで亡くなったニュースを見て初めてシリアについて知りました。爆撃を受けて逃げ惑う人々をテレビで見て、何か私にもできないかと考えて、シリアに行こうと思うようになりました。

ただ、シリアには行けなかったので、まずはヨルダン行きの航空券を購入しました。そうした頃、映画にも出演されている田村さんが代表を務めるシリア支援団体サダーカの報告会に参加しました。田村さんにシリア難民を取材したいと伝え、2013年1月に初めてヨルダンを訪れました。ヨルダンに到着した数時間後にはシリア人家庭を訪問し、撮影を始めました。初めてにも関わらずシリア人の人々は温かく迎えてくれました。難民はどれくらい悲惨な生活をしているのかと思っていたのですが、とても素敵な笑顔で迎えてくれたので難民に対する印象が変わりました。皆さん苦労されているのですが、最大限のおもてなしが心に沁みました。

(写真右:藤井沙織監督 写真左:モデレーターを務めた河原直美UNHCR駐日事務所副代表)

―あまり知られていないことかも知れませんが、シリアはこれまで、イラクからの難民を多く受け入れていた国でした。ただ、紛争開始後は最も難民を多く発生させる国となってしまいました

(藤井監督)難民としてシリアに来たイラク人はシリア人が温かく迎え入れてくれて、これまでにないほどの生活ができるようになったと聞きました。シリア人はとてもホスピタリティーのある人々です。そういう人々が今、家を失って逃れています。どういう思いで生活をしているのだろうと思いを馳せています。

―今では多くの人が難民となり、シリアを離れています。同作品では、シリア人がどれほどシリアが好きかが描かれていますね

(藤井監督)初めは、どんなに悲惨な状況かを映像に収めようと思っていました。家族の一員を亡くしていない人はいないほどの状況ですが、懸命に生きている人々がいて、笑顔も素敵なんです。みんな、シリアが大好きでシリアのことを話すときはとても嬉しそうで、そういうことを伝えたいと思うようになりました。報道では悲惨な状況が流れていますが、それ以外もある、ということを伝えたかったです。

―撮影ではどこが大変でしたか

(藤井監督)出演してくれる人を探すのが一番大変でした。自分自身が国外にいても、個人が特定されるとシリア国内に残っている家族や親族に危害が及ぶことを恐れているためです。出演してくれた人々が勇気を持って出てくれたことに感謝しています。出演者も「日本の人に(シリアのことを)知らせることができて嬉しい」と言ってくれました。

―日本の人々へメッセージをお願いします

(藤井監督)まずは知ってほしいです。今の現状もそうですが、シリアがとても美しいところだったこともです。この映画では人々の日常の一部しか見せられていないので、インターネット等でシリアについてもっと調べてもらえると嬉しいです。私は普段日本で生活していて、シリアの状況を忘れてしまうことがあります。常に考えていることは難しいかもしれませんが、自分のこととして考えていくことが大切だと思います。

Photo:UNHCR

プロフィール/藤井沙織監督

1984年生まれ、広島出身。 20代のときバックパックを背負い数十カ国を旅する。25歳の時訪れたチベットで同年代の女性の「もっと私たちのことを日本人に知ってほしい」という一言 がきっかけで「伝える」ことを仕事にしようと番組制作会社へ入社。戦争関連報道に携わる中、戦争と平和についての本質に迫りたいと考えるようになる。 2013年、フリーとなり国内の戦争体験者の声を伝える活動を続けるとともに、シリアの紛争にも関心を持ち、ヨルダンと日本を往復しながらシリア人の声を 届け続ける。