ゲストトーク『ヤング・シリアン・レンズ』:フィリッポ・ビアジャンティ、ルーベン・ラガットッラ共同監督
10月12日に上映された『ヤング・シリアン・レンズ』のトークゲストとして、イタリアから来日した共同監督のフィリッポ・ビアジャンティさん、ルーベン・ラガットッラさんが登壇してくださいました。
ルーベン・ラガットッラさん(左)、フィリッポ・ビアジャンティさん(右)
©UNHCR
―ルーベン監督、どういうきっかけでシリアに渡り、映像を撮ろうと思ったのですか?
元をたどれば、2年前にイラクのクルディスタン地域の難民キャンプで難民の方々を取材しことがきっかけです。人々はなぜ家を離れ、旅を始めたのか聞きたかったのですが、答えはありませんでした。人々は考える余裕もないほど過去の経験がトラウマになっており、難民キャンプにたどり着いてようやく今後の生活について考え始めることができることを知ったのです。この経験を通じて、難民について大きな関心を持つようになりました。
その後、2014年4月に、イタリアでシリアに関する個展が開かれ、本作品に出てくる写真家に出会いました。彼はシリア国内でも写真展を計画していたので、自分も同行しようと考えました。しかし、シリアのアレッポに着いたら、写真展を実現するのが無理なことが分かりました。写真展開催の2日前に会場が爆撃されていたためです。そうした中で、メディア・アクティビストたちに出会い、彼らの活動を追いました。監督として自分の作品を作るのはこれが初めてで、イタリアに帰る頃にはハードディスク一杯の映像データがありました。その後、インターネットで映像を編集してくれる人を探したところ、フィリッポに出会ったのです。
―フィリッポ監督、映像の編集から携わったということですが、初めて映像を見たときの感想を教えてください
私は今回の機会がなければ、シリアについて関わることはなかったと思います。メディア報道を通じては紛争のことだけしか知らなかったため、ルーベンが撮影した映像には人々の日常生活が刻まれていて驚きました。自分の娘と同年代の子どもたちが紛争と向き合っている様子が映されていました。
我々2人は、映像を見て、シリアの人々に敬意を表し、実直に正面から人々の事を描いたドキュメンタリーを制作したいと思いました。ニュースでは忘れられている人々のことを描こうという気持ちで作りました。
―ルーベン監督、日本のみなさんに伝えたいことはありますか?
短い期間ではありましたが紛争の現場に入った経験を基に、紛争とは何かを伝えたいです。ですが、本作品を通じて紛争の恐怖を伝えることには限界があると思います。他方、大惨事を目の当たりにし無力感を感じる方もいらっしゃると思います。よく、「私たちには何ができますか」と聞かれます。まずは現状を知るためにドキュメンタリーを観る、活動家を支持するなど、積極的に行動を起こして頂きたいと思います。「Be Active!」、これが私のメッセージです。
―(会場から)フィリッポ監督、子どもたちが笑っているシーンが多いのはなぜでしょうか?
意図的に子どもたちのシーンを多く採用したわけではないですが、子どもを含む人々の日常生活を知ってもらえたらと思います。紛争下の子どもたちは、世界中の子どもたちと同じ様に、カメラを向けられたら笑顔でいることしかできないのです。自分たちが紛争から逃れることができないにも関わらず。映像に映っていた子どもたちが生きているか分かりませんが、映像を撮影した当時は外で笑っていたという事実を残したいと思いました。
©UNHCR
プロフィール
フィリッポ・ビアジャンティ監督
1971年4月27日モンテルプルチアーノ生まれ。1999年ウルビーノの大学を卒業後(地質学)、アンゴラとオーストリアの石油採掘現場で地質学者として勤務。
2001年から制作会社Studio Imagina Urbinoでマルチメディアデザイナーとして、写真/ビデオ編集に携わる。多くのミュージックビデオ、短編映画およびルポルタージュを製作。2003年にペーザロ・エ・ウルビーノ県に雇用される。2007年から、同県プレス・オフィスにてビデオ/フォトグラファーとして、政治や文化に関わる映像記録を行う。2010年からJournalists and Publicists of Marcheにフォトジャーナリストおよびカメラマンとして登録される。
2010年から、芸術学校Academy of Fine Arts in Urbinoにおいて映像編集を教えている。
近年、『Periferica』とともに、スペインにおけるインディペンデントミュージックと文化に関するビデオルボを制作している。
ルーベン・ラガットッラ監督
イタリア在住のカメラマン、エディター、31歳。2013年、別の取材で訪れたイラクで出会ったシリア難民の悲惨な状況を扱ったドキュメンタリーを制作するなど、多岐に渡るドキュメンタリー映像を手がける。
これまで撮影した地域は主に中東およびバルカン半島。2012年は、ベオグラードに滞在しセルビアを訪問、旧コソボ自治区を取材した。
人間性の探求を映し出すラガットッラの作品は文学的かつ言語学的な影響を強く受けている。