大学パートナーズ:早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター(10/19, 10/23)上映レポート

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大学パートナーズ:早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター(10/19, 10/23)上映レポート

10月19日(月)と10月23日(金)に、早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンターで『無国籍を生きる』(第9回UNHCR難民映画祭上映作品)の上映会が行われました。

今回上映された映画は、戦火を逃れるために移民として入国し、マレーシアのボルネオ島で生活する「無国籍者」を追ったドキュメンタリーフィルムです。

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19日には、上映前に早稲田大学の公認ボランティア団体である「ボルネオプロジェクト」のメンバー、米屋辰郎さんが映画の舞台となったマレーシアのボルネオ島での現在の活動内容を発表しました。

また上映後には、「世界の無国籍問題とその対応について」という議題でトークセッションが行われ、無国籍ネットワーク代表で早稲田大学国際教養学部の陳 天璽准教授、ボルネオプロジェクト元代表の小野純一さん(早稲田大学法学部5年)、守屋由紀UNHCR駐日事務所広報官、在日ミャンマー難民2世である関西学院大学4年のテュアン・シャンカイさんが登壇されました。

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(守屋)世界人権宣言の第15条1項に「すべて人は、国籍を持つ権利を有する。」、2項に「何人も、ほしいままその国籍を奪われ、又はその国籍を変更する権利を否認されることはない。」と規定があります。しかしながら、現実にはさまざまな理由でどの国との間にも法的なきずなを持たない無国籍者が存在します。国籍を持たないことで、医療・教育等への普通の市民としてのアクセスが絶たれ、周りの理解を得ることができずひどい軽蔑や差別を受けます。日本には登録されている無国籍者が600名以上います。しかし、1954年の無国籍者の地位に関する条約、1961年の無国籍削減に関する国際条約には加入していません。UNHCRでは現在、「把握、防止、削減、保護」これら4つを柱として無国籍者への支援活動をおこなっています。無国籍者が発生する理由は多岐に渡り、必ずしも紛争が理由とはなりません。より多くの方が、「無国籍」について「知り、理解し、話し合い、伝え、参加する」ことが必要です。

Q, なぜ無国籍問題は解決されないのですか?

(守屋)まず当事者や周りが「無国籍」について何も知らないことが問題だと思います。世界規模で社会的に認知度が低く、こうした「無理解」が問題を引き起こす根底にあります。解決の糸口として、伝える努力や疑問を持つことが重要です。UNHCRは、無国籍者の地位に関する条約採択60周年である2014年を機に、国際社会へ向けて無国籍の根絶を掲げるキャンペーンを行っています。

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(陳准教授)日本にも実は身近なところに無国籍者が存在します。私もそのうちの一人です。1972年にとりまとめられた日中国交正常化をさかいに、日本と親の出身地である台湾の国交が断絶し日本の国内法上無国籍となりました。このように、紛争だけではなく、国の制度改正によっても国籍は脅かされるのです。合法である範囲で日々を暮らしていても社会的な偏見や生活の悩みはつきません。「無国籍=非合法」と誤解される方が非常に多くいるためです。クレジットカードやアパート賃貸の申請、就職活動の際にもプロフィール欄に「無国籍」とあるだけで普通の人が受けることないさまざまな困難にみまわれます。そして平等に扱われない経験は自身のアイデンティティー喪失につながるのです。いま、世界はグローバル化の波を受け人の移動が頻繁化しています。難民の親から生まれた子どもたちは、身の危険が差し迫ったときにどの大使館に助けを求めることができるのか、どの国が保護すべきなのか?「無国籍」が引き起こす問題は山積みとなっているように思います。

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(シャンカイさん)私は日本にいる難民2世です。今回は私自身についてお話ししたいと思います。両親はミャンマーで反政府側に立っていたために日本へ逃れてきましたが、難民申請の方法がわからず滞在期間が超過しました。その間に私は生まれましたが、両親が反政府活動に加担していたためミャンマー大使館は受け入れてくれず、日本の市役所に私の出生届けを提出したそうです。2004年に法務省で難民申請をし、生まれてからずっと日本で生活してはいましたが、両親がミャンマー国籍であるため「無国籍」から「ミャンマー国籍」へ変更されました。しかしながら、法的な国籍証明書を持たないので、私は事実上の無国籍者です。国籍を持たないことでいつも負い目を感じていましたし、どうしようもない不安に駆られることも多々あります。自分自身は何者であるのか自分でもわからないのです。

(陳准教授)無国籍ネットワークはこうした問題を抱えた人々に対し、「あなたはあなたとして存在している」という居場所を提供し、無国籍について認知していただくために公に向けてさまざまな啓発活動をおこなっています。

Q, 無国籍者になにか問題が生じたときに、居住国側はサポートすることができるのですか?

(陳准教授)たとえば、日本で生まれたものの、親が誰なのかわからない状態で養護施設に預けられた子どもがいるとします。日本政府では親の国籍をとるべきであるとしてますが、見解は国の法制度によって異なります。居住先の国と両親が籍を置いている国とで風習や考え方に違いがあるので、国家間や社会間での協力が必要であると思います。

Q, 無国籍者が国籍を持つためには、具体的にどのようなことが必要となりますか?

(陳准教授)国籍獲得に関する証明書が必要になります。日本に5年以上滞在していることや、日本語能力、日本への忠誠や、経済的収入を参考にして証明書を発行できるか決定します。

Q, 日本は1954年と61年の無国籍者に関する条約を批准していませんが、今後加入する可能性は考えられますか?

(陳准教授)そもそも日本は血統主義であり、出生地に関係なく両親の国籍に重きをおいて子の国籍が決定されます。アメリカやカナダでは生地主義が採られており、生まれた場所によって国籍が付与されます。日本が1954年と61年の条約に加入するためには日本の国籍法自体を変える必要があるので、非常に時間がかかると思います。

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(小野さん)「ボルネオプロジェクト」の発起人のひとりとして、今までの活動について紹介したいと思います。「ボルネオプロジェクト」は無国籍のこどもへの教育支援を活動の主軸においています。現地のマレーシア人向けに啓発活動をし、無国籍者に対する正しい意識形成を促しました。現地のなかでは、無国籍者は犯罪率が高そうなどと根拠のない偏見が多いと感じ、実際の経験にもとづいた知識をもっていただくことが重要だと考えたからです。この現地での啓発活動の反応として、賛同してくれる人と反発する人で両極端にわかれたのが印象的でした。無国籍者に対するマイナスなイメージは簡単にはぬぐえないのだと思いました。また、教育現場での活動は困難を極めました。当初はサポートしてくれる現地の方が少なく、手探りでの活動づくりとなりました。英語を使った「買い物ゲーム」やねんどでの工作など実施しましたが、はたしてこれが無国籍の子どものためになっているのか?と、いつも自問自答をしていました。学生団体の強みとは行動の幅広さだと考えます。「学生」だから、自由に現場に足を運べるし、計画にも柔軟性をもたせることができます。学生団体の現地でのニーズを肌で感じることのできた貴重な経験をし、自分自身を大きく成長させることができました。

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上映会終了後は、会場ボランティアの学生たち、今上映会の指揮をとられた早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンターの岩井雪乃准教授とともに、UNHCR映画祭インターンも含め集合写真を撮らせていただきました。

会場には、130名以上もの学生、一般のお客様が来場されて、トークセッション後の質疑応答も終始活発な雰囲気で充実した上映会となりました。

 

Photo:UNHCR