ゲストトーク@仙台:『グッド・ライ』JAR石川えりさん

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ゲストトーク@仙台:『グッド・ライ』JAR石川えりさん

10月31日、仙台での『グッド・ライ』上映後、トークゲストとして認定NPO法人難民支援協会(JAR)代表理事の石川えりさんが登壇されました。

―まず『グッド・ライ』をご覧になった感想をお聞かせください

(石川さん)本当に感動しました。背景には難民問題がありますが、本質的な家族、絆の大切さを気づかせてくれる物語だと思いました。

―石川さんは、この作品の舞台となった第三国定住の受け入れ先であるアメリカでのご経験もおありです。

(石川さん)はい、私たちのNPO(難民支援協会)は日本で難民支援をしておりますが、アメリカでも同様の支援団体があると知り、4ヶ月間修行に行かせてもらったことがあります。アメリカには、この作品で住居の準備をしていた女性が所属するような団体が11団体ほどあります。業務内容は、空港にお迎えに行ったり、生活しやすいように住居を整えたり、三日分の牛乳やパン、ヨーグルト、ハム、チーズを買っておくことです。私も大きなスーパーに、食糧や枕、シーツを買い出しに行きました。また、まずはアメリカで仕事を見つける必要がありますので、職場に付き添って、雇用契約へのサインや健康診断のお手伝いを行いました。

―アメリカの団体では、スタッフに元難民の方々もいらっしゃるようですね

(石川さん)元難民という方が半数勤務していたと思います。難民の方々の言葉が話せますので、私がいたときは、エチオピアの元難民の方が、通訳もしくはスタッフとして、ケースワーカーという形で仕事の面接や健康診断の手配を手伝っていました。ミャンマーのカレン族という少数民族の難民の人やキューバからの難民の人もいました。本当に多様なバッグラウンドを持つ人が働いていました。

―日本では、第三国定住というプログラムが2010年から開始されました。日本での難民の方との関わり合いを教えていただけますか

(石川さん)日本ではアジアで初めて、第三国定住というプログラムという枠組みで、タイとミャンマーの国境沿いにある難民キャンプの人たちを対象にした受け入れを行っています。毎年30人を上限に難民の人たちを日本に受け入れるというものです。日本政府が実施するプログラムで、今年度からパイロットが終了し本格実施となりました。

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(写真右:石川えりさん、写真左:モデレーターを務めた守屋由紀UNHCR駐日事務所広報官)

―日本に自力で来られる庇護申請者の方々にはどのような支援をされていますか

(石川さん)私たちは主に、日本に自力でたどり着き、難民としての保護を求める人々の支援をさせていただいております。これはUNHCRのパートナー団体としての活動です。自力で来た方は日本に来る前に難民として認められるわけではないので、日本に来てから認めてくださいという手続きがはじまります。

ただ、日本政府は非常に厳しいです。昨年は5000人が難民申請をして、認定されたのは11人。また、認定ではないけれども、日本には滞在を認めますといわれた方が110人。合わせて121人が、何らかの形で日本への滞在を認められています。JARでは、難民だという方が難民として認められるための法律的な支援、そして困窮状態に陥らないように生活面での支援等もしています。例えば、シェルターの手配や食事の提供、産婦への粉ミルクやオムツの提供です。こうしたものは多くの方からご支援いただき、難民の人たちの日々の生活に役立てていただくべくお渡ししています。

―同作品でもスーダンや南スーダンからアメリカに来て、初めて雪を見る場面がありました。日本に庇護を求めて来られる方々は暖かい国から来られる方も多々いらっしゃるかと思いますが、これから寒い冬に向けてどのような支援を予定されていますか

(石川さん)毎年、越冬支援をしております。アフリカから来た方で冬支度をしてきたという方はほとんどいません。少し肌寒いという12月に、カメルーンの方だったと記憶していますが、セーター5枚を着ながらも部屋の中が寒いと言っておりました。日本にたどり着いて難民申請ができたとしても、住む場所や食べるものがないという方もいらっしゃいます。そういう方が、凍死しないで春を迎えられるようにする「越冬支援」がこれから始まります。一般の方から毛布や寝袋、温かいコートなどをいただき、難民の方が寒さをしのげるようにする支援です。

―同作品でジェレマイアを演じたゲール・ドゥエイニーは、元難民かつ元少年兵のバックグラウンドを持ち、難民問題の啓蒙活動によりUNHCRの親善大使に就任しました。彼自身もアメリカへ行って、言葉や風土の違いに戸惑いながらも、どのように社会になじむかを模索したようです。石川さんがお会いになった方々で、難民の方が周りのサポートにより自立につながったという話はありますか

(石川さん)私たちは日本で自立していくための就労支援として、難民を雇いたいという企業と、働きたいという難民の方を結びつける活動をしています。1人の方は、私たちが企業紹介をする場に来てくれて、そこで出会った企業に就職しました。彼は7カ国語が話せるイランの方で、就職先は日本の工業製品を販売する商社でした。今まで日本の中だけで販売をされていたのですが、日本の市場が狭くなっているため海外展開をしたいということで、彼を採用しました。その結果、彼が今台湾の会社との商談をまとめています。

日本の進んだ物づくりの技術をより海外に展開していく際に、海外につながるバッググラウンドを持つ難民の人たちの力を活かせないかという、企業からの問い合わせが来ています。もう1人は、ものつくりのメーカーに就職し、その企業の製品を海外へ販売するところを担っていきたいと言っていました。同社は彼を迎え入れることによって、お互い色々な試行錯誤がありました。

それでも、企業として難民を採用し続ける、という思いで実施されています。今では国内市場の縮小もあり売上の割合が海外7割、国内3割となっているようです。外国の人も積極的に採用し、多様性を目指すことで、社員の意識も変わり売り上げも伸びたそうです難民の人を受け入れることで企業自身が変わっていく。また売上を伸ばすために難民の人たちの力を借りようと。こういう企業がでてきて、私たちは非常に励まされます。こうした会社の社長や社員が、「難民の人たちを受け入れてよかった」と言ってくださるのは、私たちが言うよりもずっと説得力のある言葉だと最近感じています。

Photo:UNHCR

プロフィール/石川えり

認定NPO法人 難民支援協会(JAR)代表理事。1976年東京都生まれ。上智大学法学部国際関係法学科卒業後、企業勤務を経て2001年より難民支援協会の職員となり、主に調査・政策提言の分野で国内外にて活動を行ってきた。難民問題にはルワンダにおける内戦等を機に関心を深め、大学在学中、JAR立ち上げに参加。2008年1月より現職。共著として、『支援者のための難民保護講座』(現代人文社、2006年10月)、『外国人法とローヤリング』(学陽書房、2005年4月)ほか多数。 二児の母。