【作品紹介⑤】人の望みの喜びよ

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【作品紹介⑤】人の望みの喜びよ

かつて自宅と呼んだ瓦礫をうつろな目で見つめる幼い少女。

その瞳に映るのは、これから待ち受ける未来への不安なのか、日常を奪われたことへの喪失感なのか、私たちには想像することしかできません。

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両親を失い、突然弟へ責任感が重くのしかかることになった姉の春奈と、両親の死を知らずその帰りを待つ弟の翔太。

大人たちの言い争い、周りから注がれる哀れみの眼差し、新しい家、新しい学校、新しい家族…その小さな身体で全てを背負い込み、心を閉ざしていく春奈に安心感をあたえてくれるのは隣から聞こえる翔太の寝息だけ…

親戚夫婦の努力とは裏腹になかなか馴染めない春奈たちに家族は戸惑い、一家は不穏な空気につつまれます。

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無邪気に両親の帰りを待つ翔太の笑顔はときに安らぎをもたらし、ときに急に大人になることを強いられた春奈を追い詰めます。

「ごめんね、お姉ちゃん嘘ついてた…」

次第に募る寂しさをこらえきれなくなった春奈は翔太の手を引き、ある場所へ向かいます―。

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これは「ある震災」を経験し、住む場所を失った幼い姉弟の物語。

その「場所」や「時代」は特定されていません。

両親、住む家、日常を奪われた被災者にとって、何があったか、よりもこれからどうするのか、が大事だからです。

二人の「その後」を見守るように優しく静かに描いた作品です。

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この映画に難民は出てきません。

しかし、難民が自分たちの意思とは関係なく突然故郷を奪われ、大切なものをなくし、新しい生活を強いられる状況は、ここで描かれる登場人物と同じです。

災害大国、日本。

このような状況にいつ陥ってもおかしくない私たちとって、難民問題は人事ではありません。

この作品を通して、少しでも難民問題を身近に感じてもらいたいという願いをこめて、『人の望みの喜びよ』は今年の難民映画祭に選ばれました。

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All Photos: (C)344Production


杉田真一監督

監督の杉田真一さんは幼いころ阪神淡路大震災を経験しました。

幸い比較的被害が少なく済んだという杉田さんですが、同じ地域で自宅の倒壊など大きな被害を受けた人たちとの共存は幼い杉田さんにとって忘れられない経験となったといいます。

通っていた学校が避難所として使用され、毎日被災者と隣あわせでの生活。
そこにはニュースでは取り上げられない被災者の日常がありました。

時は流れ2011年。東日本大震災。

少年時代の記憶が強くよみがえる出来事となり、被災者の日常、そして「その後」を描く作品をつくろうと決めたそうです。


人の望みの喜びよ

杉田真一監督
日本 / 2014 / 85分 / ドラマ
第64回ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門スペシャルメンション受賞