【9月21日(土)『ミッドナイト・トラベラー』 JICA・吉武尋史さん上映後トークイベントレポート】

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UNHCR WILL2LIVE映画祭2019」オープニング上映の921日(土)、『ミッドナイト・トラベラー』の上映後にJICA(国際協力機構)職員の吉武尋史さんによるトークイベントが行われました。聞き手は国連UNHCR協会報道ディレクターである長野智子が務めました。

 

 

映画の感想について

 

長野:皆さん、こんにちは。今日はお越しくださいましてありがとうございます。今年の6月から国連UNHCR協会の報道ディレクターに就任しました長野智子と申します。映画はいかがでしたでしょうか?すごい映画でしたよね。私自身、長年テレビをやっておりますが、やはりテレビ局のカメラや報道のカメラが決して入れない場所の映像に、私も本当に背中がゾクゾクするような思いで観ていました。そして今日はこの映画について、この映画祭のパートナーであるJICAの吉武尋史さんとお話していきたいと思います。今年の2月までアフガニスタンにおよそ22か月いらっしゃったということで、アフガニスタンの現状はよくご存じの方です。この映画をご覧になってどういう風に感じましたか?

 

吉武:アフガニスタンからヨーロッパまで、すごく長い距離を逃避行するという映画ですけども、テーマの一つは「移動」ですね。難民もそうですけど、基本的にものすごく長い距離を命がけで移動するということで、移動というのは一つの大きなキーワードだと思います。ご存じの方もたくさんいらっしゃると思いますが、アフガニスタンは内陸国であって、色んな国に囲まれている。どこに行くにもどこかの国との国境を通らなくてはいけなくて、それはつまり、意地悪しようと思えば、誰かが意地悪できるわけで、相手の国から勝手に通行を止められることもある。そういうことはよくある話です。一つ例を挙げると、JICAのアフガニスタン事務所は首都カブールにありますが、そこに務めているローカルのアフガン人女性が有給休暇を取りたいって言ったんですね。理由を聞くと、お父さんの調子が悪く、治療はアフガニスタンの医療レベルではもうできないので、パキスタンに連れていきたいと。そういう理由だったら、ぜひ行ってきなさいと言ったんです。飛行機代が高いので、車で行くと。数時間かけて国境沿いまで行って、パキスタンの病院まで連れていくその時、報道があって、パキスタンが勝手に国境を止めたという話がありました。無事に帰ってきたんですけど、そこで34日足止めを食らい、自動的に3、4日有休も伸ばさざるを得ないこともありました。

 

 

長野:そんなことがあったんですね。そういう中で密航業者などにお金を払って、外に出るシーンもこの映画の中でありましたね。他国に行きたいという方がいらっしゃると思うんですけど、映画の中の家族はタリバンに映像作家として死刑宣告された。ある種ちょっと特殊な状況ですよね?

 

吉武:特殊も特殊だと思います。この映画の家族のような理由でどこかに逃げなければいけないというのは、難民の中にあんまりいないとは思います。ただ、今「移動」がキーワードですと自ら言いましたけれども、僕はこの映画を見て同時に、頭に最初に思い浮かんだのは、この移動、すなわち「逃げる」、という選択肢をとれない人のほうが圧倒的に多くて、アフガニスタンにはそういう人がたくさんいて、そこで普通に生活しているわけです。もちろん先程言いました私のアフガン事務所に勤めているローカルスタッフは、家族がいて、カブールに住んでいて、普通に生活をしているわけですよ。その「逃げる」という選択肢をとらなかった人のことが、僕の頭に浮かんできました。

 

長野:人が自国から逃げている映画を見て、逃げないでとどまっている人をやっぱり思い出してしまうということですね。

 

吉武:一緒に机を並べて仕事していましたから。

 

長野:そうですよね。この監督の家族が逃げて今ドイツにいるということなんですけども、御覧になった皆さんもやはり心配だと思うのですが、あの二人のお嬢さんとかこれからどうなるのかなって思って…。

 

吉武:心配ですよね。わが子だったらと思うと…。

 

長野:今ドイツで難民申請してますが、一回断られています。

 

吉武:もし難民申請して難民として認定されたら、しばらくドイツで暮らしていけるってことでしょうね。映画の中でお祈りあんまりしたくないって言ってお祈りしなかった場面があったと思うのですが。

 

長野:マイケルジャクソン踊っていましたね。

 

吉武:はい、YouTubeを見てダンスしてましたね。結局ヨーロッパに行くとウェスタンな感じになっていき、特に若い子、思春期の人はそうなっていきます。英語もできるようになっていって、日常の生活に慣れてきて、子供はそれがスタンダードになっていくと思います。そうすると、アフガニスタンに帰りたくなくなるのではないかと思います。それは個人の問題ですけど、彼女たちが大人になったときにどういう風に判断するかですよね。明らかに、ドイツでの生活の方が、豊かで恵まれているはずなので。

 

長野:やはりこっちのほうが豊かで恵まれていて、マイケルジャクソンかっこいいし、こっちの文化が素敵だなあと思うんだけれども、でも、まだ難民申請も受け入れられてないし、自分たちが受け入れられてないっていう状況がブルガリアのシーンでもあると思うんですが、あのシーンはどうご覧になりましたか。

 

吉武:私はアフガン事務所にいたので、アフガン人の味方になってしまうんですけど、あそこで地元の警官が自分のことを助けてくれなかったって言っていましたよね、守るどころか、あの電気棒でアタックしてきたって。その時に警察官が「お前たちは、ISの仲間だから」って言っていたと思うんですよ。あれはものすごくつらいですね。結局アフガン人は知らない国の人たちから見ると、ちょっと汚い言い方すると、中東のやばいとこから来た、何するかわかんないやばいやつっていう、そういう可能性を持っている奴らだっていう風に一緒くたにして思われる傾向がある。あれは典型的な例ですよね。警察官にもそう言われるという。でもISに関わっている人はごくごく一部の人ですけどね。

 

長野:今回の映画は、やはり日本にいると難民問題などテレビのニュースで、それこそ私は報道する側だったりもしますけれども、難民側を迎え入れる側の方で報道してしまったりします。たとえば、メキシコとアメリカの話もそうですけど、その中にどんな人が混じっているか分からないから、トランプ大統領がゲート作ったりするじゃないですか。だけどこういう映画を見ると、難民の人たちって、映像作家ですごく優秀なひとで、奥さんも映像作家で、本当に私たちと全く変わらない。ごく普通の人たちが、やむを得ずこういう状況になり、そしてブルガリアで辛い思いをし、寝ないで歩いて夜中も森を抜けてっていう、この感じは映画を見ないと分からないなと思います。

 

吉武:携帯電話のカメラを使って撮ってますよね。それは本当に、究極の個のレベルから出発している映像だと思うんです。何千人来るから、この中に悪い人がいるかもしれないから拒絶するというのは、上から大きくマスで難民を見た視点。この映画はそれに思いっきり仕返ししてるというか、カウンター食らわしているんだと思うんですよね。携帯から見てこうなんだ、こういう世界なんだっていう、同じ物を見ているはずなんですけど、全然視点が違うんですよね。

 

長野:そうですよね。そしてその視点が違うことによって、私たちと変わらない人たちが、すごく大変な状況にあって、それこそWILL2LIVE生きる強い意志をもって、家族を連れて、安全な場所を求めているという、本当にWILL2LIVEがものすごく出ている映画だなって私は思って観ていました。

 

吉武:ドイツに無事着いても、平和な生活が待っているとは限らないですよね。ブルガリアで実際ちょっと落ち着いて宿舎には入れたけれど、あのようなコンサバな人たちに襲撃されたりすると、ドイツに行ってもそうなるかもしれないことぐらい、この監督は出発の時点で想像がつくはずです。それでもやはりヨーロッパに行きたいと判断させるほど、アフガニスタンが今大変だっていう事なんですよね。

 

長野:そうですよね。今でも亡くなっている方が後を絶たないですけれど、実は私、あの2001年の9.11の後、アメリカがアフガニスタンを空爆したときに、アフガン難民キャンプの取材に行ってたんです。その時から本当に状況が変わってないなと思ったんですけども。その時に私はアフガン難民キャンプで、映画で出てきた女の子と同じぐらいの年齢の子に、マイクを向けて今何が欲しいですか?って、ニュースのレポーターとして聞いたんです。あれぐらいの子供たちなら普通は、こう聞いたら、お菓子が欲しいとか、おもちゃが欲しいっていうのかなって思うじゃないですか。今だったら携帯になるんでしょうけど、そう返ってくるかなと思ったら、あの小さな子たちが、教育って言ったんです。私はびっくりしてどうして?と聞いたら、教育を受けられたら、夢が持てるよねってその子供たちが言ったんです。教育を受けたら学校の先生になれるよね、教育を受けたらお医者さんになって自分のお父さんとお母さんの怪我を治せるよねと。あの小さな子たちが言っていて、この子たちの夢を助けるのは、この子たちが大きくなったときのそこのコミュニティーを助けてあげることなんだと、すごくその時に思ったことを覚えていて。

 

 

吉武:衝撃でしたでしょうね。子どもからそのフレーズがでるなんて。タリバン政権の時に女性への教育は徹底的に禁止されていたので、学校に行けなかったんです。そうすると、言葉で言うよりも、想像するととんでもないことだと分かるのですが、例えばタリバン政権が15年その国を支配していたとして、女子教育を完全にストップしていたとしたら、どうなると思います?女医や女性教師が生まれないというのはありますが、それは表層的な話で、15年分の世代の女の人は字が読めなくなるということなんですね。それを取り戻すってとても大変なことなのです。世の中、文字で情報伝達しているわけなので。ここでJICAPRをさせていただきますが、JICAはアフガニスタンで色々支援をしていますけど、母子保健の状況が非常に悪い。それをどうしにかしようと思っていて、母子手帳を普及させる仕事をしています。母子手帳は素晴らしい作品で、お母さんと子供の両方を守ろうとしている。実は世界ではこの考えは共通ではなく、母子手帳は日本として素晴らしい取り組みなので色んな国で広めようとしています。母子を守るというのは医学的な話なので、書く内容はどこの国であろうと一緒なんです。しかしさっき言った15年間の層は字が読めなくて、その人たちが出産する世代になってきたら、日本の母子手帳をその国の言葉に訳して配るだけでは、お母さんたちは読めないんです。なので、母子手帳の内容は変わらないですが、表現の仕方はほとんど字を落として挿絵にしています。見て一発で分かるくらい簡単な挿絵をたくさん用いて、簡単なフレーズだけ文字に起こしてアフガニスタンオリジナルで作って配っているんです。字が読めないというのは、社会全体にものすごい大きなダメージになり、字が読めない層がおばあちゃんになるまでずっと続くんですよね。女子教育については、タリバン政権が崩壊してJICAも国際社会も一丸となって女子教育は進めていますので、学校に行けない状況は無くなってきてはいます。少なくとも私がカブールで車で移動している時に、リュックを背負った多くの女の子が街を普通に歩いていましたから、時間はかかりますけど、劇的に女子教育が改善しているのは間違いないです。

 

アフガニスタンの現状と日本にいる私たちができること

 

長野:今、母子手帳の支援などの話もありましたけれども、アフガニスタンの現状について、私たちは日本にいるとあまり知ることができないので教えていただきたいです。また私たちが日本でできるとしたらこんなことができるのではみたいなことを吉武さんからアドバイスいただけますでしょうか?

 

吉武: アフガニスタンの状況ですが、一つ非常に基本的な前提として認識していただきたいのは、今でも戦時中であることです。戦時国家であり、内戦をずっとしています。それは戦争といっても皆さんイメージがバラバラだと思いますけど、国全土が火の海になっているわけではないです。ただ政府軍とタリバンを代表する反政府勢力の争いがずっと地方で続いていまして、領土を取り合っている。今この瞬間もどこかで撃ち合っています。例えばアフガニスタン発のニュースウェブサイトが何個かあるんですけど、ほとんど毎日、トップ5つのヘッドラインのうち3つは戦況報告のニュースです。戦時中だということを毎日ニュースを見ながら実感しています。今でも地域の取り合いをしており、大体50%強が政府、40%強が反政府勢力が押さえているという状況です。日本人だったら税金を納めていれば、行政が勝手に登録して選挙票をポストに入れてくれる。何もしなくても投票に行けるような状況ですけど、アフガニスタンでは選挙を期日通りにできるかも分からない。今回の選挙を延期するかもしれないというニュースが普通にでるような国です。色んな理由があり登録が間に合わなかったり、セキュリティが確保できないから延期せざるを得ないなど、そんな理由で選挙さえままならないのです。ただ、来週アフガニスタンで大統領選挙がありまして、これも色々議論があって延長の話も出ていたんですけど、結局今のところは実施するというので準備が進められています。それが一つ大きな政治的なイベントですね。もう一つはアメリカが仲介して主導している和平協議、最終的にはタリバンと現政権との和平協議です。アメリカが仲立ちしているわけですが、去年からずっと進んでいて何回も協議をしているんです。今は一時停止している状況ですけど、固唾を飲んで見守っています。

 

長野:それが動いたらまた変わってくるかもしれないですね。だから今、アフガニスタンはとても重要な局面にいるんですよね。やはり私たちができることと言うのは、そこをまず知ることからかなと思います。

 

吉武:そうですね。支援、これは難しいですね。全員がアフガニスタンに行くことができるわけではないので。映画の中の家族のように他国へ逃れた人もたくさんいるし、国内に普通に生活している人もたくさんいて。でもそこは医療レベルが低いので、パキスタンに行かなければならないし、何でも必要だという風になってしまうんですけど。

 

長野:そうですね。こうやって映画を観てまずは知って、じゃあ自分は何ができるんだろうって思ったり、ニュースを見て、このニュースの裏にはこの映画の二人の女の子たちのような人々がいると思うことによって、次の行動が変わってくるということかもしれませんね。ちょうど監督が皆さんへのご挨拶(映像メッセージ)の中で、「自分たちは今自由に旅をできないけれども、作品が旅をしてる。日本まで作品が行ってくれている」と言っています。まさにその通りで、作品を通じて私たちが触れ合うことができない難民の人々の思いをこの映画祭でたくさん知ることができます。他にもまだまだ素晴らしい映画がありますので、ぜひお時間がありましたら足をお運びいただきたいと思います。ということで、オープニングイベントとしてJICAの吉武さんにお話を伺いました。どうもありがとうございました。

 

吉武:どうもありがとうございました。