【UNHCR WILL2LIVE映画祭2019 東小雪さん インタビュー】

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UNHCR WILL2LIVE映画祭2019」に応援メッセージを届けてくださった元タカラジェンヌ・LGBTアクティビストの東小雪さん。東さんは過去に難民映画祭にいらしたことが大きなきっかけとなり、LGBT・女性の生き方・自殺対策についての講演など、全国で活躍されるようになりました。難民をテーマにした映画から彼女が感じたこととは? そして、私たちにできることとは?

 

自分に何ができるかわからないと思っている人に、いろんな映画と出合ってほしい

 

――昨年の「UNHCR難民映画祭2018」では、イタリア文化会館で開催された3日間全てにご来場いただきました。東さんがこの映画祭に最初にいらしたのはいつですか?

東:初めて行ったのは、数年前です。お友達に教えていただきました。当時私は20代で、マイノリティのための活動をやりたいと思っていましたが、どんな行動をすればいいのだろうか、 と悩んでいたときでした。そんなときにUNHCR難民映画祭で映画を観て、「こんなふうに困っている人がいるんだ」ということを知りました。その時に受けた影響から、自分のテーマである「ジェンダーセクシャリティー」について発信したいことが広がっていきました。ですから、この映画祭から、私はすごく大きなきっかけをいただいたと思っています。そして、難民をテーマに扱った映画は他ではなかなか観られないですから、この映画祭はとても大事だと思っています。

 

――「UNHCR難民映画祭2018」ではどんなことが印象に残っていますか?

東:会場に行くと、観客のみなさんがとても関心を持って足を運んでいらっしゃるのがわかりました。そして、すごい集中力と熱意で映画をご覧になっていることが伝わってきました。昨年観た映画の中では特に『アイ・アム・ロヒンギャ』が印象に残りました。私は演劇をやっていましたので、難民の人たちが、例えば目の前で人を殺された経験などを舞台で演じていくことの葛藤や挑戦などが克明に描かれていて、その力強さは素晴らしかったです。そして、会場に来て初めて、難民問題が悪化の一途をたどっているということを知ってとても驚きました。映画祭で知った難民問題の現実をもっと伝えていきたいですし、解決していかなきゃいけないという気持ちを持ちました。

 

――今年の上映作品の中には、『ナディアの誓い ― On Her Shoulders』があります。日本での劇場公開時にはトークイベントに登壇されたり、精力的にこの作品の良さを伝えていらっしゃいましたね。

東:これは本当にたくさんの方に観ていただきたい作品の一つです。ナディア・ムラドさんは、ノーベル平和賞を受賞されたすごい人、ニュースで見る人という感じがするかもしれませんが、映画の中では、スマートフォンで写真を撮ったり、友人とスーパーマーケットに買い出しに行って笑い合ったり、お料理を作ったり、疲れ果ててため息をついていたりとか、ナディアさんの様々な姿が描かれています。ナディアさんの苦悩や葛藤はもちろんですが、彼女には私たちと同じような日常があるのだということをぜひ映像で観ていただきたいです。この作品は性奴隷という言葉がセンセーショナルな関心を持たれやすいのですが、どんな被害があったのかということではなくて、その後、彼女がどうやって生き抜こうとして、訴えてきたのかというところに注目してほしいです。

 

――東さんは、ナディアさんのどんなところに共感しましたか?

東:戦時性暴力ということと、家庭内性虐待は違うと思いますが、私自身は家庭内性虐待のサバイバーなので、直面する社会的な課題が違うとしても、やはり性被害を受けるということ、その傷つきというのは、とても深いです。性暴力というのは、人の尊厳に直結する部分を複雑骨折させるような暴力だと思っています。そして、タブーがあるんですよね。家族だということで、タブーがあったり、ナディアさんは社会的なタブーがあったり、かつ恥の概念とも結びついていて、言い出せない。自分の被害を認めるのもつらいし、人に助けを求めるのもつらい。それにもかかわらず、生き延びた彼女の強さと、それを告発した彼女の勇気は、戦時性暴力と家庭内性虐待という違いがあるとはいえ、私も顔と名前を出して、社会に伝えたいと思った一人なので共感しました。声をあげるということが彼女を生かしている部分もあるし、でも背負いすぎていてつらいだろうなと感じるところもあって、そんな彼女の姿がとても胸に残りました。

 

――「UNHCR WILL2LIVE映画祭2019」というタイトルにある「WILL2LIVE」という言葉には

「生き抜こうとする意志」という意味が込められています。ナディアさんはまさにそれを体現している女性だと思います。

東:タイトルに「On Her Shoulders」とありますけど、この映画を観たあとには、ナディアさん一人にあまりにも多くのものを背負わせてしまっているのではないかということを感じていただけると思います。ナディアさんだけではなく、被害に遭われた方は本当に大勢いらっしゃいます。性被害に遭われた経験がある方が観ると、様々な気持ちが動くかと思いますが、緊張しないでご覧になっていただけたらと思います。

 

――生き抜く力というのは、決して一人では生まれてくるものではなくて、誰かに出会ったり、チャンスを得たり、そういったことがとても重要になってきますよね。

東:本当にそうです。人だけではなく、映画や本との出合いから力やきっかけをもらったり、希望が生まれることがあると思います。映画を通して、「自分と同じ痛みを持っている人は自分だけじゃないんだ」、「誰にも話せなかったけど、この苦しさを作品にした人がいるんだ」とか、そういうことが生きる力に繋がっていくことは、私にもありました。特に今、どうやって生きていけばいいかわからない、自分に何ができるかわからないと思っている人に、いろんな映画と出合ってほしいです。

 

――『ナディアの誓い ― On Her Shoulders』は「UNHCR WILL2LIVE Cinema」パートナーズとして、学校や企業で自主的に上映できる作品のラインナップにも入っています。このことについて、どのようにお考えになりますか?

東:とてもいいと思います。私も大学で授業をすることがありますが、学生のみなさんにもぜひ観ていただいて、感想を話し合ったり、授業の一環としても学んでほしいですね。私は、1020代の人たちの悩みを聞く仕事もしていますが、虐待のことや就活のことなど、今日本に暮らしている若い人が抱える苦しさや生き難さがあります。そして、難民の人たちは、同じ若い人でも、故郷を逃れざるを得なかったという全然違う苦しさがあると思います。難民をテーマにした映画を観ることによって、そんな自分たちの生きづらさを無いことにするのではなくて、お互いに知り、理解し、考えるきっかけになればと思います。LGBTのことはこの10年で急速に理解が広がりました。特に若い人たちが授業で学びましたという声が増えたことが、大事なことだと思っています。10代のときに受けた授業で撒かれた種は、社会に出てからきっかけがあったときに必ず芽吹きます。「これは授業で聞いたことがある」とか「学校で、みんなで映画を観て学んだな」という記憶を持って大人になることで、社会問題の理解や解決、支援に繋がると思います。

 

――東さんご自身は、難民支援においてどんなことができると思いますか?

東:私はもともと、16歳くらいのころから、女の子が好きな女の子だったので、日本の社会でマイノリティでした。けれども、私はマイノリティであるからこそ、気づけることが多くて良かったと捉えることもできると思っています。ですから、難民問題をそんなに遠くに感じてはいません。難民の方の中にもLGBTの方がいらっしゃいますので、例えば、「難民キャンプの中でどのように過ごされているのだろうか?」といったことも知って、伝えていくことができればと思っています。マイノリティ性がない人っていないと思うんですよ。だから、難民問題を自分の生き難さと共通して考えられるところがあるはずです。どうして自分は生きづらいのだろう、社会の中でうまくやっていけないのだろう、なぜこんなに苦しいのだろうと思うことは、難民の方とも必ず繋がっていることなのではないでしょうか? 同じ人間ですから、誰しもが難民の方と通じ合えるものを持って考えることができるのではないかと思います。

 

――最後に「UNHCR WILL2LIVE映画祭2019」に関心を持っていただいている方へのメッセージをお願いします。

東:一人じゃ行きにくいなと思う人もいるかもしれないですけど、敷居が高いものではないので緊張しないで会場に来てほしいです。会場にいらっしゃる方は、難民のことについて知りたいな、自分に何ができるかなという気持ちを持っていらっしゃっている方たちばかりです。初めてでも、一人でも、難民をテーマにした映画祭があるのは知っていたけど行けなかったなという人も、ぜひ今年こそは会場に足を運んでみてください。

 

【東小雪】

1985年、石川県生まれ。

元タカラジェンヌ。LGBTアクティビスト。東京ディズニーシーで初の同性結婚式を挙げ、日本初の同性パートナーシップ証明書を取得(2017年に解消)。LGBT・女性の生き方・自殺対策について講演、研修、執筆など幅広く活動し、テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」、AbemaTV「みのもんたのよるバズ!」、NHK Eテレ「ハートネットTV」など出演多数。著書に『なかったことにしたくない 実父から性虐待を受けた私の告白』『同性婚のリアル』など多数。

 

(文・武村貴世子/国連UNHCR協会広報委員)