名古屋上映 SUGIZOさんトークイベントレポート

名古屋上映 SUGIZOさんトークイベントレポート

10月6日、名古屋での『アレッポ 最後の男たち』上映後、ミュージシャンのSUGIZOさんによるトークイベントが行われました。聞き手は、国連UNHCR協会広報委員の武村貴世子が務めました。

ステージに登場したSUGIZOさんは、「僕が今まで観た映画の中で、最もずしんときた作品ですので、上映後にどうやってみなさんの気持ちを和らげていくかということを考えていました。今日はここでシリアの現状をちゃんと知りながら、どうやって希望に繋げていくかというところに会話をフォーカスしていけたらいいなと思います」と始めていきました。

まずは映画の感想に触れ、「絶望的な状況をよくここまで撮ったという本当にすごい作品だと思います。フィアース・ファイヤード監督の命がけの情熱がものすごく突き刺さってくる作品でした。これほど迫真に迫った映像とリアルな状況が伝わってくるドキュメンタリー作品はなかなかないですよね。ともすれば、監督も一緒に命を落としかねない状況でずっと撮っているわけですから。そこに感動したと同時に、僕が1番思ったことは、『もしも、僕があの場にいたら?』ということです。自分がシリアの内戦の真っ只中にいる現地の男性だとしたら、間違いなくホワイト・ヘルメットの彼らと同じ仕事をしていると思います。僕は日本で災害が起きたら、真っ先にボランティアに行きたくなってしまうタイプです。だから、何か困ったことが起きれば、自分が助けになりたいという意識が、ホワイト・ヘルメットの人たちととても通ずるものがありました」と、この作品を自分自身と重ねて観たことを話してくれました。

「映画の主人公ハレドには二人の娘がいます。同じ娘を持つSUGIZOさんはどのように感じましたか?」とお聞きしたところ、「僕があの場にいたら、娘がいたとしても、自分の生き方を貫くでしょうが、親には言ったと思いますね。もしもその仕事に従事することで、命を落としてしまうかもしれないと考えたら、親には内緒で行かないということが、親への愛情だと思うんです」と答えてくれました。

特に印象に残っているシーンとして、「サッカーをしたり、歌ったり、公園で遊んだり、みんなが笑っているシーン」を挙げ、「あの状況で笑っていられるという状況が僕は全く理解できなくて。すごい人たちだなと思いました。自分だったらきっと笑えない。その強さが感動的でした」と続けました。また、「オープニングの金魚のシーンを観ただけで、この映画は絶対良いと思いましたね。この作品は残酷なシーンがとても印象に残る映画なんですけど、冒頭の金魚シーンを美しいアートにしている。廃墟をだんだん引いて映していくシーンにも、監督の感性を感じました。この映画は、真実を伝えたいという情熱家として、そして、芸術家として、監督の2つの面が高レベルに共存しているという印象がありました。本当に素晴らしい作品です」と、映画としての完成度の高さについて語りました。

そして、2016年3月から4月にかけて訪問した、ヨルダンにある、アズラック難民キャンプ、ザータリ難民キャンプで出会ったシリアの人たちについて、その時の様子を映した写真を紹介。その中で、SUGIZOさんの演奏を聴いて楽しそうな笑顔を浮かべる女性や子どもたちの写真を投影した際には、「みなさん敬虔なムスリムの方で、特に女性はヒジャブを被って、異性の前では感情を露わにしないという文化なので、コンサートが始まる時はシーンとしていました。けれども、コンサートの後半では、声を出したり、笑ったり、踊ったりしていて。音楽は、国境も人種も宗教も越えて、みんなの心を一つにすることができるんだと強く感じた瞬間でした」とその時の気持ちを話してくれました。また、子どもたちについて「子どもの目は輝いていると思う。どんな状況にあっても子どもは、遊んだり、嬉しいことがあるとキラキラ輝く。絶望の中の未来を見た感じがしました」と子どもたちから感じた希望を語りました。

続いて、今年の9月からシリアのアレッポに駐在している、UNHCRの日本人職員、高嶋由美子から届いた最新のアレッポの写真と共にトークを進めました。最初に紹介した写真は、完全に破壊された広場から瓦礫を撤去して行ったコンサートの写真。シリアの男性たちがヴァイオリンを弾いている姿を見て、SUGIZOさんは、「『アレッポ 最後の男たち』のラストシーンの2016年から2年。素晴らしい進展ですよね。ぜひアレッポに行って演奏をしたいです。この写真の演奏に交ざりたいです」と、いつかシリアに行ってみたいという思いを伝えました。

高嶋職員から届いたメッセージ「アレッポの人は強くて自分たちから再建をしています。本当に人の力はすごいです。人生の辛いときでも楽しみ方を知っています」を紹介すると、SUGIZOさんは「それが映画の中にあったように、どんな状況でもみんな笑っているということですよね」と続けました。また、現在のアレッポの街の写真を投影し、街の半分が破壊されていること、今も攻撃は続いているが、以前に比べては良くなったという、高嶋職員からの現地の報告と共に、「アレッポの人たちは支援が届かなくても本当にがんばっています。政治や宗教ではなく、同じ人として興味を持ち続けて、できれば日本の力を貸してください。アレッポの人は皆、日本が原爆を越えて発展したことに感動を覚えています」という、日本の人たちに向けてのメッセージを紹介しました。

SUGIZOさんはヨルダンでシリア難民キャンプを訪れた後に、自身のソロ楽曲として「The Voyage Home」という曲を作りました。「シリアの人たちは自分の国、故郷を本当に愛している。それは素晴らしいことだなと思いました。難民問題に関わる前は、自分の故郷に強く思いを馳せたことはなかった」と難民の人たちと出会ったことで起きた、自らの変化について語りました。

「難民になりたくて難民になった人は一人もいない」と語るSUGIZOさんは、「私たちにできることは?」という問いかけにこう答えてくれました。

「今年の難民映画祭のテーマ、『観る、という支援。』は素晴らしい言葉だと思います。僕たちは生きていて感情もあるから、映画を観て強烈な実情を知った時に、無反応でいられるわけがないですよね。『何か自分にできることがあるはずだ』と、必然的に思うはずです。余裕がある人は寄付をしたり、動ける人は現地に行くでもいい。日本にいる難民の人と交流をするのもいいと思います。けれどもそれだけではなくて、知るということ、伝えるということは、とても大きなことです。東日本大震災以降、日本には、未だ家に帰れない多くの被災者の人たちがいます。実は今は、僕たちが世界中の難民の人たちに対して、最も思いを寄せられる国民だと思っています。そして、日本で多くの被災者が被害を受けているのは天災ですが、世界中の難民の人は、人災によって今の生活を強いられている。だから人災はこれ以上絶対起こすべきではない。もう一つ言えることは、難民の人たちに思いを馳せると同時に、紛争や武器、そこに対して動く政治といった事実を知ること。そして、学び、調べること。僕は彼らを傷つけている人たちにNOを突きつけたい。でも今はそれ以上に、弱者に、困っている人に対して手を差し伸べ、笑いや温もりを届けたいという気持ちが強いので、これからも難民の人たちのもとを訪れて、音楽や様々な楽しみをシェアする活動を続けていきます」と伝え、難民支援への自らの思いをまっすぐに語ったトークイベントとなりました。

(文・武村貴世子/国連UNHCR協会 広報委員)