日本映像翻訳アカデミー 翻訳チーム 『アイ・アム・ロヒンギャ』字幕制作勉強会インタビュー第1弾
難民映画祭で上映される作品の日本語字幕は毎年、日本映像翻訳アカデミー(JVTA)にサポートしていただいています。今回の上映作品『アイ・アム・ロヒンギャ』の字幕の制作にあたり、翻訳チームの勉強会が行われました。勉強会では、「UNHCR難民映画祭2018」 字幕制作総合ディレクターの先崎進さんから、初稿と完成版を比較しながら、翻訳者の方々へより良い字幕にしていくためのアドバイスがありました。難民映画祭の翻訳チームには、上映作品を翻訳することで難民問題に関心を持ち、何年も「字幕制作」という支援を続けている方も多くいらっしゃいます。
日本映像翻訳アカデミーの藤田奈緒さん、先崎進さん、そして勉強会を受講した翻訳チームの方々にお話を聞きました。本日は第1弾として、藤田奈緒さんへのインタビューをご紹介いたします。
◆観ると何かしたくなるはずです
日本映像翻訳アカデミー株式会社
映像翻訳スクール部門 執行役員 藤田奈緒さん
――日本映像翻訳アカデミーとはどんな学校なのでしょうか?
藤田さん:今年で創立23年目を迎える、ドラマや映画などの映像や動画の字幕・吹き替えの翻訳をする映像翻訳者を育成するスクールです。東京校の通学コースのほか(遠方の方が遠隔で学べる在宅受講あり)、オンラインで学べる通信講座、ロサンゼルス校があります。幅広い年齢層の方が受講し、プロの映像翻訳者を目指し、日々学習されています。
――難民映画祭には2008年の第3回からご協力を頂いています。この協力が決まった経緯を教えてください。
藤田さん:当時、通訳のアルバイトで難民映画祭に関わっていた方が、たまたまJVTAのスクール説明会にいらっしゃったのが、すべての始まりでした。その方を通じてJVTA代表の新楽が当時の広報官の方とお会いした際、「予算がない中、英語字幕のみで上映している。言葉が分からなくても、せめて映像から気持ちだけでも伝わればと思っている。」と仰ったのを聞き、とても心を打たれたと言います。映像翻訳のスキルを教えるスクールとして、翻訳者として力になれればという思いから、ご協力がスタートしたと聞いています。
――字幕制作には、どんなルールがあるのですか?
藤田さん:日本語字幕には「1秒4文字」という字数制限があります。話者がセリフを喋っている間に読み切れる文字数である必要があるので、1秒4文字を基準に読み切れる字数内で表現をまとめます。翻訳者は自分のパソコンに字幕制作ソフトを入れ、自宅で映像に合わせて字幕を載せ、何度も再生をしながらリライトを重ねるという作業工程を経て字幕を完成させました。
――難民映画祭の作品の翻訳は、1つの作品につき、5人から10人ほどのチームで行っているそうですね。翻訳する分担はどのように分けているのでしょうか?
藤田さん:今年は作品数に対し、非常に多くの翻訳者が協力を申し出てくれたので、1作品あたり多くて10名のチーム体制を組みました。大勢のチームなので毎年リーダーを立てて作業しますが、リーダーが映像を一通り確認し、1人あたりの作業ボリュームが均等になるように分担をします。
――難民映画祭の字幕制作は、チームワークがとても必要な作業ですね。
藤田さん:そうなんです。メーリングリストを作って、日々やり取りをしています。例えば、同じ人の名前が出てきたら統一が必要です。統一する表記を表にまとめて共有したり、翻訳チームのメンバーでしっかり連絡を取りながら完成させていきます。
――字幕制作はプロボノ(※専門家が職業上持っている知識やスキルを活かして社会貢献をするボランティア活動)でご協力を頂いています。なぜ、無償でご協力をして頂けることになったのでしょうか?
藤田さん:前述したように、JVTAの代表がご縁あってUNHCR駐日事務所の当時の広報官の方とお会いしたのがきっかけでした。「映像翻訳は世界を豊かにする」という信念のもと、映像翻訳者の地位向上を意識して日々活動する我々にとって、「難民支援」という社会貢献に対し、映像翻訳者の職能を生かしてご協力できるのは非常に光栄な機会であると考えています。関わる翻訳チームの皆さんも、映像翻訳者としての自分のスキルが社会のためになるならばという思いで参加されています。また、最近では、JVTAが難民映画祭に協力していることを知って、「自分も難民映画祭の翻訳チームに入りたい!」という理由で入学される方もいます。
――字幕制作は、どのくらいの期間をかけて行われるのですか?
藤田さん:1か月から1か月半くらいです。難民映画祭で上映する作品は、非常に繊細で複雑なテーマを扱っていますので、社会情勢や背景を知らなければ正しく翻訳できません。深く掘り下げて調べものをするため、訳すのに非常に時間がかかります。また、より正確に、そして観る人にわかりやすい表現を求めて、何度もリライトを重ねるため、それぐらいの時間がかかるのです。
――難民映画祭を通して難民問題を知って、藤田さんにはどんな変化がありましたか?
藤田さん:私は第5回から関わっていますが、難民というキーワードにすごく敏感になりました。ニュースで難民の人について取り上げられていると、「その後、あの人はどうなっただろうか?」とその方の行く末が心配になります。2013年に上映された『異国に生きる-日本の中のビルマ人』を観て、日本に住んでいる難民の人の話を初めて具体的に知って衝撃を受けました。もしかしたら「普段行くレストランで働く人や、道ですれ違う人も難民の人かもしれない」と思うと、何か自分にできることはあるだろうか?と考えます。そして、私たちにできる支援はやはり翻訳をすることだと思っています。
――最後に、今年の難民映画祭に関心を持っていただいている方へのメッセージをお願いします。
藤田さん:難民映画祭は、一度足を運んだら毎年観に行きたくなる映画祭だと思います。普段の生活の中で難民のニュースを見ても、どこか遠い国のできごとと感じている方が多いでしょう。まずは映画を観て、現状を知っていただきたいです。観ると何かしたくなるはずです。身近に感じるということで、自分も一歩アクションを起こそうというきっかけになればと願っています。
(文・武村貴世子/国連UNHCR協会広報委員)
※明日は先崎さんと翻訳チームのインタビューをご紹介いたします。お楽しみに。