【仙台 ゲストトーク『シリア、愛の物語』 IVY堀野正浩さん】
9月17日『シリア、愛の物語』上映後、イラクでシリア難民支援をしている国際NGO 、IVY(アイビー)で理事を務める堀野正浩さんにご登壇頂き、トークイベントを行ないました。司会はUNHCRの守屋由紀広報官が担当しました。
―まずは、この作品をご覧になっての感想を教えてください。
堀野さん: 今回で2回目の鑑賞になりましたが、改めて悲しい気持ちになりました。映画に出てきた夫婦と同じように、私にも小さい子どもがいるので、いろいろな思いが重なりました。難民に関するニュースやドキュメンタリーは、人々を「難民」として一括りに描いてしまうことがあります。この作品では、難民となってしまった人たちにも、私たちと同じようにそれぞれの人生があることを描いていました。
―おっしゃって頂いたように、難民と言うのは記号でも暗号でも数字でもなく、紛争や迫害によって家を追われた人々です。堀野さんの活動団体IVYは、イラクで支援活動をされています。活動内容についてご紹介いただけますか?
堀野さん: 私たちIVYは、2013年からイラクのクルド自治区で、難民支援活動を行なっています。中東と言うと、暑い所というイメージがあると思いますが、冬はかなり寒くなります。何も持たずに逃れて来た人たちにとって冬を越すと言うのは大変な事で、私たちは越冬のための衣類や暖房器具の配布を行っています。また、学ぶ機会を奪われてしまった子どもたちへの教育支援を行っています。
―難民の子どもたちの教育支援には、どのような難しさがありますか。
堀野さん: 難民の中には、難民キャンプの外に出て生活している家族もいます。キャンプ内では子どもたちへの補習クラスなども実施されていますが、キャンプ外では学ぶ機会を失う子も多い。就学年齢なのに、何か月も学校に行けず一日中家で過ごしているという子どもたちもいます。また、私たちが活動するクルド自治区の言語はクルド語なので、アラビア語のシリアの子たちは、地元の学校に行けないという課題もあります。
そこで私たちは地元の教育省などと連携し、キャンプ外に難民の子どもたち向けの補習校や学校の整備を行っています。先生は難民となった人たちからも採用しています。
**この後、堀野さんが写真でIVYの活動を紹介してくださいました**
<会場からの質問>
質問:キャンプ以外の場所で避難生活を送っている人々がどこに住んでいるのか、どのように把握するのでしょうか。
堀野さん: 地域に詳しい地元の支援団体と協力して事業を行っています。効果的なのは、支援物資の配布です。支援物資を配りに地域に入ると、避難している人が集まって来てくれるので、そこでニーズの聞き取りも出来ます。どのような家庭か、不足しているものは何か、不就学の子どもたちはいるかなど、難民が置かれている状況が確認できます。
質問:支援活動をすることになったきっかけを教えてください。また、なぜIVYは山形に本部があるのでしょうか。
堀野さん: 団体設立のきっかけも難民でした。70年~80年代のインドシナ難民問題です。当時、カンボジアから逃れて来た人々の難民キャンプがタイにあり、山形から10人ぐらいのメンバーが視察に行きました。日本へ帰ってきて「自分たちも何かしないといけない」という考えた人たちが創立メンバーになり、1991年に山形にIVYという団体が出来ました。
地元に暮らす外国人の支援から始めて、カンボジアでも農村支援などの事業をするようになり、東日本大震災でも緊急支援や復興支援の事業を行いました。そして震災で得た緊急支援の経験を生かして、いま最も深刻な人道問題であるシリア難民の問題に取り組もうと、2013年秋にイラクに入りました。
―最後に会場の皆さんにメッセージをお願いします。
堀野さん: いま世界中で難民問題が深刻になる中、日本の難民受け入れ数は非常に少ない。それに対してはもっと努力していくべきだと思っています。一方で、日本の社会は、難民や移民だけでなく、広い意味で外国の人たちを受け入れていく準備があまり出来ていないなと感じることがあります。
IVYは山形を拠点に、在住外国人の支援活動もしていますが、地域で暮らしていく外国人は様々な壁を感じて生きています。それは制度の面だけでなく、私たち自身の、多様な文化を持つ人々を隣人として受け入れる姿勢が、不足しているからです。なので、いま日本に難民の人が多く来たら、どうなるんだろうという思いがあります。
ここ仙台にも、1万人を超える外国人が、観光客ではなく住民として暮らしています。この人たちとより良い形で共存するために、何が出来るのか真剣に考える。日本の難民受け入れについて考えるには、そういったところから始めていく必要があると思います。
PROFILE
堀野 正浩(ほりの まさひろ)
認定NPO法人IVY(アイビー)理事。
2007年から2009年まで本部事務局スタッフを務め、2011年からは理事として仙台で活動している。
IVYは1991年に設立。これまでカンボジア、フィリピン、東ティモールで活動し、東北においても在住外国人の支援や国際理解教育などを行ってきた。東日本大震災後は、被災地での救急支援や雇用創出事業、また山形市内に福島からの母子避難者を対象とした保育所運営などを実施した。
2013年秋からはイラク北部のクルド自治区で活動を開始。
クルド自治区に避難しているシリア難民、イラク国内避難民への越冬支援、子どもたちのための教育支援を行っている。
©UNHCR