【仙台 ゲストトーク『罠(わな)~被災地に生きる』: JICA平林淳利さん】
9月18日、仙台での『罠(わな)~被災地に生きる』上映後、トークゲストとしてJICAの国際協力専門員(社会開発・地域開発)の平林淳利さんがご登壇されました。司会はUNHCRの河原直美が担当しました。
河原:フィリピンのタクロバンではUNHCRも、緊急援助物資の配布など、支援活動を行っていました。自然災害の被災者はUNHCRの支援対象者である「難民」の定義には当てはまらないのですが、フィリピンの場合、UNHCRの事務所があり、備蓄倉庫もあったことから、緊急の人道支援をすぐに行うことができました。そのような背景から、この度の難民映画祭ではこの作品を取り上げさせていただきました。
それではまず、平林さんのタクロバンでの活動について、お聞かせください。
平林さん: JICAは2013年11月8日の台風直撃直後から支援を始めたのですが、私が現地に行ったのは2014年の4月からです。それから今日まで、ほとんど毎月現地に行って、支援を続けています。今日は、JICAとしての立場から、また私個人としても、現地に行って感じたことをお話できたらと思います。
タクロバンの人口は被災前は22万人ほどいたのですが、台風で死者が1300人、行方不明者を合わせると被害を受けた人は何千人もいると言われます。
自治体や漁協の方など、普段一緒に活動している人たちは皆さん非常に明るいんです。でも内面では人には言えない、過去の被災の苦難をいつも持ちながら前に進もうとされています。この作品を観て、改めてそれを忘れてはいけないと感じました。
このシャツ、今一緒に仕事をしているタクロバンのスタッフの皆さんが作ってくれたんです。この胸のマークは小さいですが、プロジェクトで支援しているタクロバン市のあるレイテ島とサマール島なんです。下にあるのは日本の国旗で上がフィリピンの国旗なんですね。このシャツの後ろも見てください。
「ワンチーム」って書いてありますね。ここに模様のように書かれているのが、一緒に仕事した仲間の名前です。フィリピンの皆さんには「一緒にやっていこう」という気持ちと団結力がすごくあって、私達もそんな思いに動かされ、1つのチームとして共に活動しています。
私が今関わっているプロジェクトは、復旧・復興支援プロジェクトです。タクロバン市との協力は、簡潔に言うと自治体に対して土地利用計画と避難計画を作るお手伝いをしています。映画にも出てきましたが、被災直後にフィリピン政府は、「海岸から40メートル以内には一切建物を建ててはいけません」「人も住んではいけません」という「No build zone(ノービルドゾーン)」というのを作りました。
しかし、その地域に貧困層の人々がまだ沢山住んでいるのが現状なんです。安全な地域にどのように移転してもらうか、土地をどのように使って行けばいいかなど、今後の計画を立てる上で活用できるハザードマップの提供と計画策定上の留意点を助言しています。また、学校や庁舎、病院など、破壊されてしまった公共の施設を再建する支援もしています。生計手段を失った人々に魚・カキ養殖、女性グループには食品加工など地場産業の復興支援も行っています。
―台風だけではなく、様々な自然災害に警戒する必要があると伺っています
平林さん: はい、川の氾濫や土砂崩れもそうです。映画の後半にも出てきましたが、大雨で土砂が崩れて生き埋めになってしまった人もいます。現地の皆さんは、台風のことはいつも気に掛けていますが、大雨による被害も非常に危惧しています。
―この映画の中では、女性の活動が見られましたが、その辺りはいかがですか
平林さん: フィリピンは東南アジアの中でナンバー1の女性の社会進出率を誇ります。今タクロバンの市長さんと一緒に仕事をしていますが、この方も女性です。一緒に活動している食品加工グループのリーダーにも女性の方が多いですね。私たちは活動を通して、社会でどのように女性の力を活かすべきかということについても学ばさせて頂いています。
―復興の状況をどのようにご覧になっていますか
平林さん: 台風ヨランダ前にはタクロバン市に唯一あったマクドナルドが復活し、垂れ下がっていた電線も瓦礫もきれいになって、一見町は明るくなって、何事もなかったように見えます。しかし、皆さんの心にある傷は決してなくなることはないんですよね。一人ひとりが、前に進もうと努力していることを様々なところで感じます。
―東日本大震災で被災した宮城県東松島市と協力関係にあるそうですね
平林さん:そうなんです。東松島市は東日本の震災で大きな被害を受けた自治体ですが、JICAと協力関係を結んで活動しています。
東松島市はこれまでに計4回フィリピンの被災者を受け入れています。津波によって東松島市が被害を受けた直後、自治体はどう対応したか、フィリピンで被災した皆さんと復興の取り組みについて意見交換を行なっているんです。東松島市の人にもフィリピンに行ってもらい、意見交換をしてもらいました。
復興で大変な時期に、フィリピンの食品加工の会社を東松島市で受け入れてもらいました。被災者同士で心が共鳴したのだと感じました。身内を失くしたことなどを一人ひとり語り始めて、自然と涙を流していました。
私たちは被災者ではありませんが、そこにどこまで近づこうとしていけるかという気持ちは大切だと思います。このようなつながりを大事にしながら、今後も活動を続けて行きたいです。
PROFILE
プロフィール:平林 淳利(ひらばやし あつとし)
国際協力機構(JICA)社会基盤・平和構築部 国際協力専門員(社会開発・地域開発)。予備校講師、NGOスタッフ、コンサルタント、JICA専門家を経て現職。
台風・地震の被災地・エボラ出血熱流行国、紛争影響国を含む、開発途上国の復興や開発協力に従事。特に、地域開発計画作り、コミュニティインフラ整備事業管理のプロセスを通じた、自治体と住民組織との協働体制整備や仕組みづくり、コミュニティ開発など。3年以上の駐在国:タンザニア、ケニア、ネパール、シエラレオネ。
Photo:UNHCR