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【ゲストトーク・関西】『無国籍を生きる』JICA落合直之さん,RHQ中尾秀一さん
10月25日兵庫県西宮にて行われた難民映画祭の作品『無国籍を生きる』の上映後に国際協力機構(JICA)の落合直之さんと(公財)アジア福祉教育財団難民事業本部関西支部の中尾秀一さんによるトークイベントを行いました。
(落合さんと中尾さんの詳しいプロフィールは
こちらから)
<日本の無国籍者について>
日本で難民の定住支援に携わる中尾さんは、作品に登場するマレーシア、サバ州の無国籍者の状況とは異なる日本の無国籍者の状況を説明されました。
「日本で無国籍の状態にある人というのは、たとえば日本人と外国籍の方の間に生まれた子どもが認知されないなどの理由で国籍がない状態になってしまうケースが上げられます。また難民の両親の間に生まれた2世の子どもたちが無国籍状態に置かれることが多いです」
二つ目のケースに関して、難民として日本で暮らす両親が祖国に出生届を出していないために両親と同じ国籍を取得できず、さらに日本人を両親に持たない子どもは日本国籍を取得できないために、事実上無国籍状態となってしまうと詳しい解説がありました。
しかし、国籍がなくても、映画の中のケースとは違い、在留資格を持っている場合が多く、難民として受け入れられた場合は定住者としての在留資格があるため、選挙権がない以外は日本人とほぼ同じ資格があることにも言及されました。つまり、就学・就労が認められ、保険や生活保護などの国のサービスへのアクセスもあります。しかし、同時に結婚や、海外旅行などに支障が出ることが多く、課題が残ることも訴えました。
<無国籍者と社会の関係>
JICAフィリピン事務所に駐在経験をもち、ミンダナオ国際停戦監視団では、日本政府派遣要員として 社会経済開発を担当した落合さんは、映画の中で描かれる無国籍者の置かれている背景をマレーシア、フィリピンの歴史に触れながら説明してくださいました。映画は、フィリピン出身の無国籍者の様子を伝えていますが、この問題は歴史的にも長く続く不安定なマレーシアと周辺地域との関係、さらに国内外の問題から生じる様々な影響を受けていると加えました。
また、社会経済開発を通じて紛争を収めることに携わってきた落合さんは、そもそも社会的に不安定な状態が紛争を招くことから、貧困、不平等、不公正などを改善し社会的に安定な状態を作り出すことが重要だと訴えました。
情勢不安のために国を追われる人々が増やさないためも、社会を安定させることが国際社会の役目だとし、そういった難民、避難民が発生しない社会になれば無国籍者を1人でも少なくすることにつながるのではないかと話されました。
<意見交換>
この後、それぞれ違った立場で『無国籍問題』に関わってこられたお二人が意見交換を行いました。「無国籍問題の現状について今後どう対処していくべきか」について落合さんは
「これは人権の問題だと思います。人が人として暮らしていくということは地球上に住む人々が持っている権利ですので、これは人権が侵害されているということです。ですからどうやって人権を守るのかというのが問題で、自分でそれが出来ないとしたら誰がするのか。社会なのか国なのか。いかに人権を守るべきなのかということが問題だと思います。具体的には何らかの身分証明を与えることが重要だと思います。あなたが誰なのか、どこで生まれたのか、そういった身分を誰かが証明しない限り人権も守られない。この問題はフィリピン、サバの問題だけでなく日本も含めた世界中の問題だと思います。」
と意見を述べました。
また日本の状況について中尾さんは、
「日本にいる無国籍者の方は多くの場合在留資格があるので何らかの身分証明はあります。しかし、帰化の手続きを進める中で感じることは、国籍を取得したからといってハッピーエンドではないということです。例えばベトナムにルーツを持つ難民の2世が日本で育つとベトナムの言語、文化を保つことが難しいことがあります。これは、日本が少数の人が持つ文化を尊重する社会になっていないからです。ましてや、人と異なる文化を持つことで学校でいじめにあうなど、どちらかというとネガティブに捉えられることが多い。国籍の問題を解決した先には、こういった人々がどのように自分のアイデンティティ、ルーツに誇りをもてるのか、という問題があります。これは制度の問題ではなく、彼らを受け入れる日本社会が多様な文化を尊重できるかというところにかかっていると思います。」
と訴えました。
Photo:(C)UNHCR