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【作品紹介】イブラヒムのミツバチ
『イブラヒムのミツバチ』は特別な出会いが生んだ奇跡のような、ドキュメンタリーです。
全てを失いたどり着いた異国の地で、周囲の人々との信頼関係を築きながら養蜂に情熱を燃やす、心優しきイブラヒム。
故郷を追い出され、難民となっても信念で映画を撮り続ける映画監督、マノ・ハリル。
全てを失っても、自分の「生きがい」は決して手放さなかった二人。
不思議なめぐり合わせで出会った主人公と監督。その二人をご紹介します:
イブラヒム(主人公)
美しい自然に囲まれたトルコのクルディスタン地域で養蜂家のイブラヒムは妻と11人の子どもたちと何不自由ない暮らしを送っていました。しかし、立派に成長した子どもたちが大学入る目前だったある年、その平和な暮らしは終わりを迎えることになるのです。
対立するトルコ軍とクルド労働党(PKK)の衝突が激化し、イブラヒムの住む町が突如戦火に巻き込まれてしまったのです。多くの無実の市民が犠牲になりました。
イブラヒムは政治にはあまり関心がありませんでした。彼にとって何よりも大事だったのは家族、美しい自然、そしてミツバチ。
しかし、残酷にも大切なものは全てイブラヒムから奪われることになるのです。
子どもたちが反政府運動に加担したことによりイブラヒム一家は、安心して暮らせなくなってしまいました。トルコ軍から目をつけられたイブラヒムは、このままでは家族全員に危険が及ぶと危惧し、一人避難することを決意。そこから7年もの間、避難生活を続けることになります。
残された家族はトルコ軍によって度々執拗な取り調べをうけ、イブラヒムが大切にしてきたミツバチの巣箱も全て壊されてしまいました。生活の糧を失った妻と子どもたちは貧しい生活を強いられます。さらに、次々と子どもたちの戦死の知らせを受けた妻は絶望し、ある日窓から身を投げ出しその尊い命を終わらせてしまったのです。
4人の子ども、妻、そして故郷を失ったイブラヒム。
身を潜めながら生活を続けてきた彼がたどり着いたのはスイスのとある小さな村でした。そこで彼は難民認定を受け、新たな人生を切り開くことになるのです。
マノ・ハリル監督
「人には失うものがある。家族、富、故郷、自由...。でも夢を奪うことは誰にも出来ない。」
シリアのクルド系の家庭に生まれたハリル監督は、幼いころからクルド人への差別や不平等な待遇に疑問を感じていました。いつしか映画監督として、クルディスタン地域をとりまく現実を伝えたいと思うようになり、シリアのクルド人をテーマにした映画を製作しましたが、そのことが原因でシリアを追われ、スイスに逃亡。それでも、映画を通して人々に真実を伝えたいという思いは決して失いませんでした。
ハリル監督は、イブラヒムに出会ったとき、苦境のなかでも情熱を絶やさない彼に共感し、思わず自分と重ね合わせたといいます。どんなに厳しい試練に直面しても、自分を見失うことなく、人を信じ、まっすぐ生きるイブラヒムの物語を伝えなければならないと思いこの作品の制作を決めました。
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イブラヒムの優しい眼差しの裏には壮絶な過去が秘められていました。
悲しみを乗り越え、決して失わなかったもの。それは生きがい。
これは、言葉も文化もまったく違う遠い異国の地で、全てを失ってもなお静かな情熱を燃やし続け、ついに生きがいを取り戻したイブラヒムの姿をやさしく見守った作品です。
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All Photo: © Frame Film - Bern
『イブラヒムのミツバチ』
マノ・ハリル監督
ドイツ / 2013年 / 107分 / ドキュメンタリー
日本初上映