日本映像翻訳アカデミー 翻訳チーム 『アイ・アム・ロヒンギャ』字幕制作勉強会インタビュー第2弾

日本映像翻訳アカデミー 翻訳チーム 『アイ・アム・ロヒンギャ』字幕制作勉強会インタビュー第2弾

難民映画祭で上映される作品の日本語字幕は毎年、日本映像翻訳アカデミー(JVTA)にサポートしていただいています。今回の上映作品『アイ・アム・ロヒンギャ』の字幕の制作にあたり、翻訳チームの勉強会が行われました。本日は第2弾として、日本映像翻訳アカデミーの先崎進さんと翻訳チームの方々へのインタビューをお届けします。

◆夢があると人間はエネルギーが湧いてくる

日本映像翻訳アカデミー株式会社 メディア・トランスレーション・センター
ディレクター/翻訳者 「UNHCR難民映画祭2018」 字幕制作総合ディレクター 先崎進さん

――先崎さんが、難民映画祭の字幕制作をされるようになったのはいつからですか?
先崎さん:5年前から翻訳者として『ソニータ』『アレッポ 最後の男たち』などの字幕翻訳に関わってきました。6年目の今年は、総合ディレクターとして、上映される全ての作品の翻訳のチェックと校正を担当しています。

――難民映画祭の翻訳チームにはどういう人が参加しているのでしょうか?
先崎さん:毎年、JVTAの通学コース、オンラインで学べる通信講座、ロサンゼルス校の通学コースを修了した翻訳者を対象に、参加メンバーを募集しています。

――みなさん、プロボノでのご協力なんですよね。
先崎さん:そうですね。映画祭のテーマに共感しての参加であることは当然ですが、そこに自分のスキルを生かして協力できること、また良質な映画作品を訳すという経験を積めるという点にやりがいを感じています。難民映画祭からご依頼頂く作品は、まだ誰にも訳されていません。
この作品について知らない日本の人たち初めて紹介するという重みがあります。作品を託され、責任ある立場で翻訳を行うという、甘えは一切許されない状況を通して翻訳者としても圧倒的にスキルが上がる機会でもあります。

――今日の勉強会に参加された方の印象はいかがでしたか?
先崎さん:コース修了後まもなく経験が浅いた方もいるため、中には「自分の訳文に自信が持てない」という方もいらっしゃいました。でも、実際に作品と向き合って、自分自身の持っている力を全てぶつければ、素晴らしいものを作り出す力を誰もが持っていると感じます。
『アイ・アム・ロヒンギャ』の言葉を借りるとすれば、「大丈夫、きみなら絶対できる」ということをこの勉強会を通して知ってもらいたかったんですよね。この難民映画祭での字幕制作をきっかけに、翻訳者としての実力と自信を身に付け、さらに大きく羽ばたいていってほしいと思っています。

――難民映画祭の字幕制作は、翻訳チームの皆さんにとって、翻訳者として成長する機会でもあり、夢を実現させる経験の場でもあるんですね。
先崎さん:『アイ・アム・ロヒンギャ』に出てくる若者を通しても感じたことですが、夢や希望が持っているパワーはとても大きくて。夢があると人間はエネルギーが湧いてくる。可能性を信じて、自分が全力を尽くすエネルギーって、すごく必要なことなんじゃないかなと思います。難民という状況に置かれている人たちでも、自分の夢をあきらめないで、いつかこうなりたいという夢を持っている。そうやって生きている人たちは目が輝いているし、美しいですよね。

――勉強会に参加された翻訳者のみなさんは、年齢層がバラバラでしたね。
先崎さん:今は、日本全国どこにいてもインターネットの環境と専用の映像翻訳ソフトがあれば、どこでも翻訳者として働けます。JVTAには、フリーランスの翻訳者になりたいという若い方はもちろん、子育てが少し落ち着いて、自宅でできる仕事として学ばれている女性や、定年した後の仕事として、映像翻訳の勉強にチャレンジされている方など、20代から60代まで幅広い年齢層の方が学んでいます。映像翻訳は、興味関心があればいつでも始められるお仕事です。

――先崎さんご自身は映像翻訳の仕事を始められて、いかがですか?
先崎さん:すごく楽しいです。翻訳をやっている時は言葉が出てこなくて、1つの言葉について3日も考えて、追い詰められたりすることもありますけれど、自分が翻訳をした作品を観て、「すごく良かった」という一言をもらえるだけで、今までの苦労なんて吹っ飛んでしまうくらいやりがいを感じます。

――『アイ・アム・ロヒンギャ』をご覧になった方からどんな感想が届いたら嬉しいですか?
先崎さん:この映画で「ロヒンギャ難民のことを初めて知ることができて良かった」という言葉ですね。外国人や難民への見方が少しでも変わったらいいなと思います。この作品の中で登場する人物は、普段私たちが感じていることと同じことを感じているんです。例えば、「この弟を守るためならなんでもする」とか、「抱きしめて、愛していると言いたい」とか。難民と呼ばれる人も、私たちと同じ人間なんだということを伝えている作品です。映画に登場する人物が「観るだけじゃなくて心で感じてほしい」と言っています。もしも心で感じてもらえれば、次に難民として苦しい状況に置かれている人を見た時に、見方が変わってくると思います。

――先崎さんは、アンコール上映となる『アレッポ 最後の男たち』の翻訳も担当されました。この作品をご覧になっていかがでしたか?
先崎さん:人が亡くなっていく様子が映されている、通常の感覚では考えられないような場面に衝撃を受けました。けれども、主人公のハレドの「家族を守りたい」という気持ちが全編を通して表れています。紛争の悲惨さを伝えると同時に、家族への愛、仲間への信頼、祖国を再建したいという、破壊されたものを自分たちで復興しようという思いがすごく伝わってくる作品です。

――難民映画祭で上映される作品は、難民問題について考えさせられるだけではなく、勇気や力が湧いてくる作品も多いですよね。
先崎さん:映画を観て、自分の視野や度量の狭さにはっとさせられることが、何度もあります。例えば、難民の人たちが苦しい状況の中でがんばっているのに、自分が仕事での失敗でうじうじ悩んでいることは、すごく小さいことなんじゃないだろうかと気付きましたね。

――映画をご覧になった方には、ぜひ感想をSNSなどでも伝えて頂きたいと思うのですが、「なんて書いていいかわからない」という人も多いかと思います。言葉のプロの先崎さんから、アドバイスをするとしたら?
先崎さん:友達や家族に伝えると思って書いてみてください。難しい言葉を使わないで、自分が感じたことを、あなたの言葉で伝えてください。自分で考えて理解していることだったら、必ず伝わるはずです。

――最後に、今年の難民映画祭に関心を持っていただいている方へのメッセージをお願いします。
先崎さん:難民という言葉がつくだけで、ハードルが高いような印象を持たれるかと思うんですけど、身構えないで作品をご覧になってほしいです。映画を通して、彼らが何を考えていて、何を求めているのかということをすごく感じられると思います。そして、お金や物資ではない支援というものも世の中には存在します。翻訳チームは「この人たちの声や、感じていることが届いてほしい」という願いを込めて、訳文を送り出しています。作品に登場する彼らの思いをぜひ感じてください。

 

【UNHCR難民映画祭2018 『アイ・アム・ロヒンギャ』字幕制作翻訳チームの声】

――『アイ・アム・ロヒンギャ』をご覧になっていかがでしたか?

「過酷な経験をしたロヒンギャ難民の若者たちが“ロヒンギャ”を知ってもらうために自ら劇を始めたこと、彼らが殻を脱ぎ捨てて成長していく様子が観られて感動しました。そして、ミャンマーでの迫害の実態、彼らは私たちと何ら変わらぬ人間であることを知られて良かったです。たくさんの方に観ていただきたい映画です」

「“ロヒンギャ”という言葉はニュースで知ってはいましたが、現状をよくわかっていなかったので、この映画を通して、彼らがどういう状況に置かれているのかということがよくわかりました」

「子どもたちが自分たちで、“ロヒンギャ”のことを伝えようと、演劇を始める生き生きとした姿に感動しました」

――翻訳をしていて印象に残っていることは?

「ミャンマーでの思い出を語るインタビューで、登場人物が過去のつらい経験を淡々と、時に涙をにじませながら話すシーンです。特に、家族が亡くなった話や目の前で親戚や友人が殺された話はつらく、印象に残っています」

「ロヒンギャ問題を報道しているニュースのシーンで、どう表現したら迫害の状況をしっかり伝えられるのか言葉選びに悩みました」

「翻訳をしている間ずっと、これを映画にしてくれて良かったと思っていました。本だと抵抗がある人も映画なら観られるのではないでしょうか。文字だけで知るよりも、映画だとすごく深くまで感じられると思います」

(文・武村貴世子/国連UNHCR協会広報委員)

 

※『アイ・アム・ロヒンギャ』の作品情報はこちらから。