第8回UNHCR難民映画祭は、2013年9月28日(土)-10月6日(日)まで開催します。|8th UNHCR Refugee Film Festival will take from28 September(Sat) - 6October(Sun), 2013.

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第9回UNHCR難民映画祭。詳細につきましては、随時この公式サイトにてお知らせいたします。みなさまのご来場を心よりお待ちしております。

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2014年10月20日 17:19

2014

【ゲストトーク】『シャングリラの難民』久保眞治さん


『シャングリラの難民 ~幸福の国を追われて~』の上映後に久保眞治UNHCRネパール・ダマック事務所長がトークゲストとして登壇しました。
(久保眞治さんの詳しいプロフィールはこちら
 
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―久保さんは1993年にUNHCRの職員になり、主に中東、アジア地域の難民保護にとりくんでこられました。今年1月からネパールのダマックで活動を始められましたが、久保さんが派遣された当初はどのような状況でしたか?
 「私が派遣された当時、ダマックでは世界最大規模の第三国定住プログラムがフル稼働、現在はブータン難民問題解決に向けてまさに大詰めを迎えています。スタッフもUNHCRが100名、国際移住機関(IOM)でもも200名ほど働いています。、2008年以来多い時で年間1万7000人、今年も既に7000人ほどが第三国定住でネパールを離れています。ネパールにいるブータンからの難民について、日本ではあまり知られていませんが、アメリカがその大部分を第三国定住で受け入れています。」

―ネパールに避難している難民の多くが、第三国定住プログラムでアメリカ、カナダ、オーストラリアへ行っていますが、ネパールにいる難民にとってなぜこの3国が魅力なのでしょうか?
「それらの国の支援の規模・コミットメントが大きいということだと思います。また家族が先に行っており、新しい生活を始めやすい面もあります。」

―そういった国はなぜ難民を受け入れるのでしょうか?
「これまで9万3000人が第三国定住をしましたが、そのうち最大の7万8000人がアメリカに旅立ちました。
様々な背景がありますが、まずはなんとしても困っている人々を受け入れたいと、政府と一般市民の多くが人道的意義を感じているのだと思います。」

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―ブータンは幸せの国というイメージが日本では強いように感じますが、実際にブータンから逃れた難民と接する中でどのような声が聞かれますか?
「彼らは20数年間に渡って大変な苦労をして来ています。先祖の代から生活を営んできた土地を突然追い出されたという苦悩は時間が経っても消えないようです。けれど現在の環境で元気に暮らしていかなければならない。多くの難民が日常的に揺れ動く心を持っているように感じます。年老いた方々の中には『アメリカという見知らぬ土地に行くよりも、なんとかブータンに帰れないか』『もし帰れないなら今いるネパールでもっと見通しをもって生活ができないか』とおっしゃる方がたくさんいます。」

―私が今年ダマックの難民キャンプを訪れたとき、笑顔で夢を語ってくれる子どもたちの姿が印象的でした。その夢を何としてでもかなえてあげたいと願う親は多いでしょうね。
「難民キャンプでは子どもたちの存在が活力の源となっています。親は子どもたち、孫たちのためになんとか未来を開いてあげたいと思っています。ネパールの難民キャンプでは例えばカリタス・ネパールがUNHCRが活動を始める以前から支援に乗り出しており、子どもたち対して極めて質の高い教育支援を行なってきました。こういう人たちが支えてきたということの意義も大きいと思います。」

―今一番課題だと感じていることは何ですか?
「9万3000人が第三国定住をしましたが、キャンプにはまだ2万4000人ほどの人が暮らしています。この人々の多くは第三国定住の順番を待っていたというよりも、ネパールやインド出身の人と結婚しているといったような、すぐにはネパールを離れられない様々な個人的な事情を抱えています。
最終的には1万人から1万5000人がそのままネパールに留まざるを得ないのではと考えています。彼らの困難な状況をどう解決してゆくべきか、第三国定住プログラム後の支援のあり方が課題になってくると思います。ネパール・ブータン両政府をはじめとする関係各国、NGO や国際機関と協力していくことが大切だと思います。」

―難民支援と一言でいっても、一人ひとり背景や希望が異なることを考えると大変難しい課題ですね。
「全員の希望を叶えることは困難です。UNHCRが全てを支えているのではなく、地元の皆さんや難民自身の協力なしにはできないことだと思います。」

 
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―支援に携わる中で、やりがいを感じるのはどんな時ですか?
「UNHCRの活動だけですべてがうまくいくわけではありません。まず難民が期待する支援内容と最低限必要なこととのギャップがあり、最低限必要なこととUNHCRのリソースでできることとの間にもギャップがあります。ダマックでは数ヶ月に1回難民の代表を中心に円卓会議を行っています。難民の方々がどんな希望を持っているのか、どんなオプションがあるのか、それに対してUNHCRは何が出来るか対話を重ねています。そうした話し合いを通じ、信頼が強化される、、そして難民を中心に関係者が互いに支え合う、そうした取り組みが実を結んでいると実感できることが時、やりがいにつながっていると感じます。」

【質疑応答】

Q. 今もブータンから難民は出続けているのですか?
「新たに難民が発生しているという事は聞いていません。難民の中には、今でも家族・親族がブータンにいるというケースもあります。国際社会の関心が寄せられる中で、今のブータンでそのようなことは起こりにくいと思います。」

Q. アメリカは多くのブータン難民を受け入れていますが、メキシコから避難してくる人々は受け入れていません。地理的に近いメキシコの人々を先に助けるべきではないのですか?
「難しい問題だと思います。国際法上の切り口で見ると、ブータン難民は迫害を受けていて、難民であるという明確な理由があるのに対して、ラテンアメリカ地域の場合には避難してくる事情が様々です。また、それぞれの国の移住政策や治安を含む行政上の観点から、ブータン難民はある意味受け入れやすい難民と捉えられている面はあるでしょう。

Q. 米国とブータンの関係について、また日本とブータンの関係について教えてください。
「第三国定住政策が大詰めを迎えるなかで、アメリカを始め国際社会が自発的帰還も含めた最終的な解決に向けてブータン政府に対しても外交的なフォローを一層強めることになると思います。日本に関しては、AMDA病院や企業の衣料支援などが行われてきました。一方で、第三国定住そのものには関わっていません。これからは日本にも何らかの役割を期待したいと思っています。」

Q. 映画では第三国定住をして4年後の様子を伝え、ハッピーエンドで終わっていますが、必ずしも全員がアメリカで幸福になったわけではないと思います。家賃が払えない人などに対する支援は充実しているのでしょうか?また帰りたいと望む人々はいるのでしょうか?
「おっしゃる通り7万もの人が第三国定住でアメリカに移住した中で、全員がすぐに幸せになるわけではありません。第三国定住をしたブータン難民の自殺率が一般平均よりも高いという報道もあります。ブータン難民がアメリカ社会の中で特に困難と感じることは何であるのかという議論もされています。新しい国で新しい生活をするのは苦労の連続で、生活が立ち行かなくなる人も多くいます。
一方でそうした人々はアメリカの社会福祉の支援の対象になります。また7万人のブータン難民が移住しているので、そのネットワークは強いようです。アメリカに着いてほどなく難民キャンプの家族に仕送りを始めるなど、ブータン人の横のつながりは強固です。ブータンに戻りたいと願う人もいますが、実際にブータンに戻るのは難しい状況です。」

Q. 日本人の役割は何でしょう? 何か出来ることはありますか?
「シリアや中央アフリカ共和国などで数え切れない負の連鎖が続いています。そして足元のアジアでも、ブータン難民のように20数年間も苦労している方々がいます。
まず日本の方々には心の垣根を取る努力をしていただきたいと思います。また、日本人は不信を信頼に、対立を協調に変えることが得意なように思います。なんらかの形で難民のこと、彼らのために何ができるのかを考えてほしいと思います。
こうした映画作品に触れることは、近くの人道問題について考えるチャンスだと思ってほしいと思います。」


Q. 夫がネパール人で私自身もネパールでカリタスの活動に参加してきました。アメリカが7万人のブータン難民を受け入れたこともそうですが、ネパールという最貧国に近い国が18年もの間、こうしたブータン難民を受け入れていたという事実も日本の皆さんにも知っていただきたいと思います。
「そうですね。ネパールの国会議員の方々とお話したときに、『彼ら(ブータンからの難民)は我々だ。ネパールからブータンに行って追い出されてきた我々の仲間なんだ。彼らが幸せになるまで見守るつもりです』とおっしゃっていたのがとても印象的でした。多くのブータン難民を受け入れたネパールの人々の、言葉では言い表せないような人道支援の姿を垣間見たような気がします。」

『シャングリラの難民』をご覧になった皆さんにメッセージをお願いします。
「ブータン難民の姿をご覧いただきましたが、国際的にはあまり注目されず、いわば静かに始まった彼らの難民キャンプでの生活がまた静かに終息しようとしています。今後、キャンプを離れた彼らの人生、その余波を皆さんが目にすることもあるかもしれません。皆さんには、このようにネパールの地で難民として生きてきた人々がいる、その事実をずっと心に留めておいてほしいと思います。」

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Photo: (C)UNHCR

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